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「懐かれちゃったね」
「あー、動物には昔からよく懐かれんだよなぁ」
「人間には怖がられるのにね、ウケる」
「やかましいわ」
狩矢が笑いながらしゃがみ込んで猫に触ろうとしたが、猫はぴゃっと飛び跳ねるようにして逃げてしまった。
「う〜ん、やっぱり駄目か」
「同族嫌悪じゃね」
「?」
「いやなんでもねぇ…」
狩矢がきょとんとした顔で俺を見上げてくるから、勝手に気まずくなって頭を掻きながら目を逸らす。
「おまえはなんつーか、犬よりも猫派っぽいよな」
「オレは犬派だよ」
狩矢はよっこいしょと言って立ち上がる。
「あっそ。ついで言うと俺も犬派だ」
「あっそ。ついで言うと中型犬が好きかな」
「実家で飼ってた犬が中型犬だったから、俺も中型犬が好きだぜ」
「犬を飼うならイチローかタロウって名前をつけたい」
「マジかよ、実家で飼ってた犬がタロウだったわ。俺が名前をつけた」
「気持ち悪いくらいに犬に対する好みが一緒だね。気持ち悪いくらいに」
「二度も言うな」
離れた場所からさっきの猫がニャーニャー鳴いている。見ると、赤い鳥居が並ぶ稲荷社の近くで地面を飛び跳ねるバッタか何かの虫を捕まえようとしていた。まさかあれ食うのかな…。
俺はふと思い、狩矢に向かって尋ねる。
「なぁ、勇利はどっち派だったんだ?」
「勇利?あいつはハシビロコウが異常に好きだったよ」
二択から外れた斜め上からの返答だった。じゃあもう鳥派ってことでいいか。
「そんなことよりも、今日の勝負をしようよ」
「唐突だな…まぁいいけど。何で勝負する?」
「アレ」
口もとに笑みを浮かべた狩矢は、社務所の隅に置いてあるおみくじの箱を指差した。
「一番結果が良かった方が勝ちってことで」
「おー、いいぜ」
おみくじの勝負は初めてだ。まぁバチは当たらないよな。
百円を入れておみくじを引き、二人同時に開封した。
俺は“吉”
狩矢は“小吉”
「よし!俺の勝ちだ」
思わずガッツポーズをした俺の隣で、悔しそうな顔をした狩矢がぼそりと「くっそ…勝ったら虫を食わせたかったのに」と呟いたのは聞かなかったことにした。
「命令、どうすっかなぁ」
昼飯にラーメンを奢ってもらおうかなと考えていると、ニャーという猫の鳴き声が聞こえた。見るとさっきの猫が何かを咀嚼している……見なかったことにした。
そこでピンと閃く。
「よし狩矢。今日一日、語尾に“ニャン”をつけて喋れ」
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