2話『呪いの“木箱”』

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■□  駆除作業中は危ないからと秋子さんに言われ、あの後すぐ店を出た俺と狩矢は近くにあったコンビニまで移動して来た。作業には一時間程度かかる為、コンビニのイートインスペースを借りて昼食をとりながら時間を潰すことにする。  店内には俺たちしか客はいなかった。俺はおにぎり二個とレジ横にある唐揚げ、そして紙パックの緑茶を購入する。借矢はコーヒーゼリーだけを購入し、二人で奥にあるイートインスペースの椅子に並んで座った。  隣で狩矢がカップの蓋を開けているのを見ながら、今更だが本当に体に悪い食生活だなと心配になる。少しでも野菜を食べさせたい。 「なぁ、お前がさっきまで食べてたお菓子でポテトサラダ作れるんだぜ。今度作ってやろうか?」 「にゃ…ニャンですと!?」 「わざとらしいリアクション顔やめろ」  狩矢は俺を見て、小馬鹿にしたようにハンっと鼻で笑う。 「篤人が料理上手なのは知ってるけど、お菓子で作るおかずなんてお菓子に失礼だと思わないのかニャン」 「いやまぁどっちかっつーと、おかずに失礼かもな」 「おかずにするのはAVだけにしろニャン」 「ぜんぜん上手くねぇぞ」  アホな会話はこれくらいにして、さっさと食べちまおう。  おにぎりの梅と昆布のうち、昆布の方を手にとって袋を開ける。その時、俺のすぐ真横にある出入口の自動ドアが音楽を鳴らしながら開いた。  ちらっと視線を向けると作業着姿の四十代くらいの男性が一人で来店し、左に曲がってドリンクコーナーに向かって行く。視線を手元に戻した俺はおにぎりにかぶりついた。もぐもぐと咀嚼して飲み込んだ後に、隣にいる狩矢の顔を見ずに話しかける。 「なぁ狩矢。秋子さんのあの様子、呪物に何か心当たりがありそうだったよな。もしかして秋子さんが呪物を所有してたりして……おい、狩矢?」  隣が静かすぎることに気づいた俺は狩矢を見た。真顔になった狩矢の視線は俺から逸れて、肩越しに何かをじっと見つめている。  あ、この表情は…。  少しの緊張感を覚えながら振り返ると、視界にさっきの男性の後ろ姿が映る。男性はお茶のペットボトルを取り出してレジに向い、会計を済ませると自動ドアに向かって歩いて来た。そのタイミングで狩矢が動く。 「あっ、おい待てよ…」  俺の制止は当たり前のように無視されて、狩矢は男性の前に立ち塞がった。狩矢の背後で自動ドアが無意味に開く。 「な、なんだ君は…」  男性は急に目の前に現れた黒スーツ姿の青年に困惑した。狩矢は冷たい目をして笑みを浮かべると、男性の首元に向かってずいっと自らの顔を近づけ、鼻をくんくんと鳴らす。 「…さっきと同じ匂いがする」  狩矢は下から男性の顔を覗き見てそう囁いた。男性の困惑した顔が若干赤く染まる。俺は額を抑えて深くため息をついた。  男性は眉根を寄せて気味悪そうに狩矢を見たが、何も言わずに出て行った。去っていく男性の後ろ姿を、狩矢はまるで獲物を狙う猫のように目を細めて見つめていた。
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