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吉祥寺駅から歩いて五分ほど離れた中道通りに位置する喫茶店。
落ち着いた雰囲気が流れるアンティークな店内は、カウンター席も含めてほぼ埋まっていた。ざっと見た感じ、客層も若者から年配と幅広い。
俺たちは女性店員に案内されて、窓際の二人がけの席に座った。
狩矢はお目当てのチョコレートケーキと、加えてチョコレートパフェを注文。俺は夕飯も兼ねてサラダとスープがついてくるナポリタンを注文する。ドリンクは狩矢はいらないと言い、俺だけアイスコーヒーを頼んだ。
「呪物不足だ」
店員が離れて行ってすぐ、狩矢がため息混じりに呟いた。俺はおしぼりで手を拭きながら苦笑いする。
「ハイ?」
「はぁ…」
いやため息…こっちがつきてぇよ。
狩矢は優雅に手足を組んで、物思いにふけった顔を窓外に向ける。今の狩矢を目の前にしているのが女性なら、その横顔に見惚れてうっとりするだろう。
「“呪物に侵された人間”が見つからないまま一ヶ月近くだ。…退屈だ。あー退屈すぎて死にそうだよ」
「ンなぽんぽん見つかってたまるかよ」
「ぽんぽん見つかってくれなきゃ困る。オレの娯楽の為にもだ」
睨まれた。理不尽だ…。
「まぁ今日は俺の奢りだからな。甘い物でストレス発散しろ」
「君が昨日持ってきたAV、あれなに?」
おい今ここでAVの話はやめろや。
「君、看護婦が好きだったよね。いつから家政婦に乗り換えたの? 最近リアルで家政婦を雇うようになったとか? 君って苦学生だよね?」
「もうお前黙れ…!」
俺が訴えても狩矢はぺらぺら喋り続ける。こうなったらもう止められない。
ぐぁあやめてくれ…!
俺は両手で頭を抱えながら項垂れる。キッチリした黒スーツを着こなした狩矢と、見た目が素行の悪そうなヤンキーの俺は、傍から見たら警察の取り調べを受ける容疑者みたいな光景に見えるだろう。
…あぁそうだ。誰もがまず気になっているだろう、狩矢の黒スーツ姿について話そうか。すまん現実逃避させてくれ。
こいつは大学生のくせして私服がスーツという変わり者だ。しかもカジュアルスーツじゃないから余計に目立つ。
狩矢と親しくなってきた頃に「どうして毎日スーツを着ているのか」と理由を聞いたことがある。狩矢からは「毎日服を選ぶのが面倒だから」という返答が返ってきた。
「高校の時の制服がブレザーでネクタイの結び方にも慣れているからスーツを選んだ」と、狩矢は何でもないことのように言った。そんな理由で周りから孤立していいのかよ、と俺は思った。
実際、大学内でも黒スーツ姿の狩矢はかなり目立つし、近寄りがたいヤベェ奴に見られている。本人は交友関係が狭くてもまったく気にしない性格だから、俺が心配してやっても「余計なお世話だよ」と鬱陶しがった。
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