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「……ん?」
急に目の前にいる狩矢が静かになったことに気づいた俺は、不思議に思いながら顔を上げる。
狩矢はそっぽを向いて真顔になっていた。何もない所を見つめる猫のような表情をしている。
狩矢の視線は、店内の壁際にある四人掛けのソファ席に向いていた。その席には二人組の男子高校生が向かい合って座っていて、同じオムライスを食べている。
一人はイケメンの分類に入る爽やかな見た目をしている。
もう一人は、あまりパッとしない地味で平凡な顔立ち。イケメン君のせいで余計に存在感が薄い印象を受ける。
「狩矢? …まさか」
狩矢はイケメン君をジッと見つめていた。俺は声を顰めて言う。
「“呪物に侵された人間”を、見つけたのか?」
そう確信した。
すると狩矢がちらっと俺を見て、にやりと笑う。
「退屈に殺されることはなくなったよ」
そう楽しそうに言ってから席を立った。
あ、ヤバい。
慌てて止めようとしたが、狭い店内だ。スタスタと歩み寄って行った狩矢はあっという間に男子高校生たちが座る席の真横で立ち止まる。
「こんにちは」
俺の方からは狩矢の背中しか見えないが、きっと満面の笑顔で話しかけただろう。
急に話しかけられた男子二人はスプーンを持つ手を止めると、揃って怪訝な顔をして狩矢を見上げた。そして二人はびっくりしたように目を大きくすると、視線を下へ、そしてまた上へとゆっくり戻すようにして狩矢の全身を見た。
まぁそうなるよな。
いきなり話しかけてきた見知らぬスーツ姿の男を目の前にした時、良くある相手側の反応である。
「あぁもう…っ」
狩矢が変な行動をとる前に止めねぇと。
俺は急いで席を離れて狩矢の背後に近づく。「おい狩矢」と声をかけて肩を掴むより先に、狩矢がイケメン君に手を伸ばして顎を掴み、無理やり上を向かせてぐっと顔を近づけた。
「君、呪物に侵されてるね」
笑みを浮かべて囁く狩矢に、イケメン君はびっくりした顔で固まってしまった。
…初対面の男子高校生に顎クイするとかどういう神経してんだよ。
「麗音に触るな」
立ち上がった地味顔君が、顎に触れている狩矢の手首を掴んで引き剥がすと、かなりお怒りな表情をして狩矢を睨みつけた。対する狩矢は不思議そうな顔をして地味顔君を見ている。
あー…帰りてぇ。
このカオスな状況の中、俺は顔を片手で覆って深くため息をつくしかない。近くのテーブル席に座っている二人組の女性が「きゃーヤバなにあれ」と好奇心を滲ませた視線を俺たちに向けてくるのがなんか怖い。
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