さんくん

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「すみません。ついうっかり」 頭を垂れると、薄い夏服に覆われていた白い胸元があらわになった。私は反射的に目線を逸らした。佐藤舞子はすぐに顔を上げた。 「では改めまして安堂寺さん、先に原稿を仕上げてください」 「いや、書きますよ。書かないとは言ってない。外の空気を吸って気分を変えるだけなのだ。すぐに戻るから」 「時間までに原稿を届けたいんです」 「それはそうだろう。佐藤さん、あなたの立場はよくわかってますよ。だからそのためにも気分を変えて……」 電話が鳴った。 廊下に置いてある固定電話だ。今どき珍しいダイヤル式の黒電話。天然記念物並みの代物だ。だがデジタルやら何やら新しいもの全般にアレルギー反応をする体質の私にはこれしか扱えないのだ。折り畳み式の携帯電話も持っていることには持っているのだが、受信専用だ。私が自分の意思で携帯電話のボタンを押して誰かに発信することはない。たとえ天地が引っくり返っても。 黒い受話器を取り上げて、耳にあてた。 「もしもし。安堂寺だが」 「うう、俺だよ、俺……」 消え入りそうな声。泣いているようにも聞こえる。 大人の声ではない。 少年。 中学生か。いやもっと幼い。 小学生だ。高学年。そう、五年生ぐらいか。
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