甘い1日

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「ふふっ、藤次さん、まーだっかなぁ〜♪」  …毎月22日。  それは絢音にとって、1ヶ月の中で1番心踊る日。  時計の針を見つめながら、藤次の帰りを今か今かとそわそわして待っていると… 「ただーいまー」 「あ!」  玄関から聞こえてきた声に弾かれるように立ち上がり、いそいそと出迎える絢音。  やや待って、玄関先で和かに笑う藤次と顔を合わせる。 「おかえりなさい!ねぇ、今月は…何処の?」  待ちきれないのか、性急に本題を切り出してきた絢音に、藤次は得意げに、白い菓子箱を掲げる。 「聞いて驚け。祇園の老舗和菓子屋菖蒲堂がこの日だけに出す、奈良県産の白雪と、博多県産あまおうふんだんに使った数量限定特製イチゴショート…4個買うてきた!喜べ!2日楽しめるえ?!」 「わあっ!!嬉しい!!藤次さん!大好き!!」  ガバッと抱きついてきた絢音を優しく受け止めて、藤次は可愛い可愛いと頭を撫でる。 「ホンマに、絢音はイチゴショート好きやなぁ〜。おかげですっかり、ワシまで好きになってもうた。ほらほら、もう離れよし。飯食って、ケーキ食べよ?」 「う、うん!!もうご飯用意してるから、早く食べましょう?」 「おう!」  そうして居間に行き、藤次は手早く着替えて、2人は食卓を囲む。 「おおっ!豆腐ハンバーグに筑前煮!それに唐揚げ!ワシの好物ばあやん!なんや?まるでパーティーやん!!」 「そりゃそうよ!!今日は1ヶ月で1番の日ですもの!お酒も飲む!?酒屋さんで大吟醸買っちゃった!!」 「マジか?!めっちゃテンション上がるわ!!お前も飲め飲め!乾杯や!」 「うん!!」  頷き、日本酒をなみなみとグラスに注ぎ、2人は乾杯と言って、盛大に盃を呷る。 「ああ美味い!!飯も酒も美味い上に、食後に楽しみまである。最高やな。」 「良かった!ご飯喜んでもらえて!一生懸命探してきてくれたお礼になってれば良いんだけど…」 「ああもう、そんなん気にしなや。ワシが好きで調べて買いに行っとんやから。地元で培ったツテをお前のために使える思うたら、幸せやねん。」 「藤次さん…」 「な、なんね。そんなジロジロ見られたら、食い辛いやん。」 「えへへ。なんでも無い。ただ、幸せだなって…」 「そ、そんなん…ワシかてお前が側に居てくれて、幸せやで。」 「藤次さん、ありがとう…」 「こっちこそ、おおきに。」  そうして笑い合って食事を終え、いよいよ本日のメインディッシュが、食卓に並ぶ。 「何これ…パフェじゃない。」  菓子箱から出てきたのは、藍色の陶器の中に、細かい四角形のスポンジケーキと紅白のイチゴとメレンゲクッキーが敷き詰めてあり、それをホイップクリームをまとめられ、中央にあまおうがデンと盛られた、パフェを思わせるスイーツに、絢音は小首を傾げていると、藤次がチッチッチと、舌を鳴らして彼女の鼻先をちょんと突く。 「絢音みたいなイチゴショート好きの玄人なら、もう普通のやつはつまらんやろ?せやから、口ん中入れて完成するパフェタイプのケーキを、今回はチョイスしてみたんや。」 「へー…口の中で完成するケーキ…」  感心しながら、一口掬って頬張ると、口の中いっぱいにショートケーキの味と食感が広がり、絢音は目を輝かせる。 「美味しい!メレンゲクッキーがアクセントになって、すごく新鮮なケーキ!!素敵!!」 「ほうかほうか。ほんならワシも…」 「あ!……はい❤︎」  ふと、藤次の前に置かれたパフェを、絢音は自分のスプーンで中身を掬い、彼の口元に運ぶので、藤次は締まりのない顔でパクりと食べる。 「うーん!美味い!絢音が食わせてくれたから余計に美味いわ❤︎」 「えへへ!ありがとう、藤次さん!大好き❤︎」 「ワシも!絢音❤︎」  …毎月22日。ショートケーキの日。  それは2人にとって、1番楽しい日で、1番…甘い1日なのでした。  ごちそうさま。
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