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偶然。鞄を拾う手がとまった。公園を通るとマンションへは遠回りしないといけない、本当に偶然なのか。
「カスミさん?」
「ううん」
なんでもない、首を振ったカスミは鞄を拾いレンを見上げる。もしレンが駆けつけたのが偶然じゃなくても、かまわない。それほどまで愛してくれるということに、喜びを感じてすらいる。
レンがいなければ、カスミの生活はもっと寂しくなっていたかもしれない。愛することは、一方的にもできる、恋することは、一方的にはできない。
「あ、カスミさん。雨上がりましたね」
東屋の外には、夕暮れの色が広がっていた。澄んだ空気を吸いこむ。
「私、レン君のことが好きみたい」
「えっ!?」
空に負けないくらい赤くなったレンが愛おしくて、カスミは微笑む。レンは口をパクパクして、覚悟を決めた表情でカスミの頬にそっと触れた。
「いいんですか、そんなこと言って。俺は重いですよ、色々」
「いいよ。後悔しな……ん」
唇が幾度も重なり合っては離れた。明日はきっとよく晴れるだろう。
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