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 ナシルの私室には宦官も女官も入ることを禁じられ、ムスタファだけがいざなわれた。隅で控えるムスタファの傍らでナシルは重たげな外套を脱ぐ。 「タージは随分と成果を出しているな。彼の身分を回復する際にはかなりの上奏文が届いたが、今では彼を認める声をよく聞く」 「殿下と旅をしていた頃、殿下は本当に村の隅々まで把握されているのがよく分かりました。元々民からの信頼も厚い方です。これからもますます飛躍なさることでしょう」  するとナシルは何やら意味深な含み笑いを向けてきた。そんなつもりはなかったが、タージの方に期待しているというように捉えられたかもしれないと思い、「陛下のお力があってのことですが」と苦し紛れ付け加えた。 「気を遣わんでいい。確かにタージは私ができなかったことを次々やってのける。センチネルの能力もあちらのほうが高い」 「そんな」 「だが突っ走りすぎだ。タージを評価する者は多いが、比例して大臣たちの不満も募っている。地方の整備のために減俸され、真に国の支えになっている者の働きを軽んじていると。今は私が宥めているからやり過せているものの」  いつまでもタージを庇い続けるつもりはない、と言っているように聞こえた。ふと一抹の不安がよぎる。 「殿下は内廷に関しては詳しくありませんし、今は地方のことで手一杯ですから気が回らないのでしょう。それだけに大臣たちが抑制されているのは陛下の人徳のなせる業かと」 「まるで私のほうがタージの影だな」 「決してそのようなことは……」
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