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「そりゃあ……確かに、アシュラフやナシルにはそういう気持ちはあったと思う。でもタージには違う。俺は誰かのために必死になれるお前を尊敬してるし、自分もそうなりたいと思った。お前が傷付いたら俺も悲しいし、お前が嬉しいと俺も嬉しい」
「それはお前がガイドだからだろ。共感能力があるんだから、俺と同じように悲しくなったり嬉しくなったりするのは当たり前だ。……それはお前の気持ちじゃない……」
両親に捨てられたというトラウマを、例え犯罪組織でも仲間を集めることで紛らわせ、自分と同じ境遇の人間を助けるために一緒に戦うことで少しずつ信頼を集めてきたのに、タージの努力も虚しく人々はあっさり彼から離れた。どんなに頑張っても異端者扱いをされるうえに命も狙われる。もはや今のタージは細胞レベルで人を信じられなくなっている。どう言えば伝わるのか分からなくて、ムスタファは自分の中にある考えをとにかく必死に言葉にした。
「俺はタージのことを主だとも思っているけど、同志だとも思ってて……けど、それだけじゃなくて……お前の感情を共感するのは俺だけでありたいっていう我儘もあって……」
「……」
「タージは国を引っ張っていく人間として色んな人間から慕われてるけど、その中で一番近いところにいるのは俺だっていう自信みたいなのが欲しくて……、えぇと、もしタージが何かに悩んだり辛いことがあったら真っ先に俺に言って欲しい、んだ。口にできないなら心を視ることはできるし、その役目が俺だけでありたい。お前を癒せるのも、体を寄せ合うのも、心を見せるのも、全部俺だけでありたいと思ってる」
ずっと冷たかったタージの体が少し温かくなっていることに、ムスタファは気付いた。地面に垂れているタージの手を取って力いっぱい握ってやる。
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