プロローグ

1/1
前へ
/171ページ
次へ

プロローグ

 赤道直下に位置するとある熱帯地域に、鉱山に囲まれた小さな国があった。  その国を治めているフェルハト王家は、金、銀、銅など多数の鉱山資源を財源に莫大な富を独占していた。  風に乗って砂塵が舞う、ある乾いた季節の頃である。フェルハト王家に待望の後継ぎが誕生した。乾季だというのに豪雨が降り続く不吉な夜だった。雷鳴とともにこの世に産まれたのは双子の男児。最初に取り上げられたのは小麦色の肌と漆黒の髪を持った赤子、次に取り上げられたのは同じく小麦色の肌だが、絹糸のような金髪を持つ赤子だった。  双子は王家の秩序を乱す不吉なものとしているこの国では、彼らの誕生を誰もが恐れ、国王はあとから産まれた金髪の赤子をすみやかに殺すよう命じた。しかし母であるサブリナ妃がそれを許さず、殺害したと見せかけて逃げるようにと、臣下の一人に王家の紋章が刻まれたルビーの指輪とともに赤子を託したのだった。  赤子を託された臣下イブラヒムは指輪と引き換えに自身の家族と身分を捨て、王宮から遠く離れた集落に身を隠した。そしてこの哀れな王子を立派に育て上げ、いつか国王に据えさせると復讐心とも言える誓いを立てたのだった。  タージ・アル=フェルハト。  それがそれが捨てられた王子の名である。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加