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そしてムスタファは衣服を脱いで上半身を露わにしたナシルにぎょっとした。目のやり場に困って顔を背ける。ナシルは意地悪く笑って「脱げ」と下した。
「上だけでいいのだ。肌を見せて私の隣に来い」
ムスタファは動揺しながら、けれども従わないわけにもいかず、言う通りにした。甲冑を取り、軍服の釦を外し、上半身をさらけ出す。ナシルは細い指でムスタファの胸に指を這わせた。やたら冷たい指先に肌が粟立つ。手を引かれてゆっくり寝台に腰掛ける。夜伽に呼ばれた女官はこんな気分なのだろうかと考えた。
「シールドは張れるか?」
「はい」
「お前はタージのケアをしていたのだろう。ならば私のケアもしろ」
ナシルはムスタファの首に絡みつき、柔らかいシーツに押し倒されるように倒れ込んだ。指先だけじゃない。ナシルは体もどことなく冷たい。
「私の心を読めるか」
「……え、と、大河のように広く深いお心ゆえ、私には少々身に余ります……」
直接肌を合わせているのに、ナシルの心の内はまったく分からなかった。ただ、なんとなく冷たいということだけだ。――感情がない。というのが、咄嗟に抱いた印象だ。けれどもナシル自身はムスタファの力を感じているのか恍惚とした表情で体を摺り寄せてくる。
「能力に覚醒した時から、母上からは何人もの女官を宛がわれた。ひょっとすると相性のいいガイドがいるかもしれないからと。けれども誰一人合わなかった。女官と伽を果たす度に、私は女官を殺した。役にも立たないくせに媚を売るのが憎たらしくてな。ムスタファを軍部の演習場で見かけた時、もしやと思った。だから私の側にいられるよう大尉に引き上げたのだ。そしてお前はやはりガイドだった」
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