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国境の警備のため暫く留守にすると告げると、タージは渋い顔で「分かった」と聞き入れた。仕事だから仕方がない、といった様子だ。
「側にいるって言ったのに、ごめん」
「俺だってそこまでガキじゃねーよ。むしろ軍人としての仕事をまっとうしろ」
「絶対に単独で動くなよ。能力を使い過ぎたら駄目だぞ。大臣との喧嘩もほどほどにな」
「っかー、口うるせえな。分かってるよ、すぐ殺さない」
笑いながら言う。かつてムスタファが酸っぱく言ったことをタージはずっと守っている。ムスタファが言ったからというより、彼自身が変わったのだろう。最初の頃のような残忍さはもうない。ムスタファは彼を信じて、自分は自分の任務をまっとうすると決めた。
ケアに関してはハムザに頼んである。ハムザは心配いらないから、無事に帰ってこいと有難い言葉をくれた。
「だけど今は陛下にも呼ばれることがあるだろう。板ばさみになったりしないか?」
「なかなか歩み寄ろうとしなかったお前たちが今では互いに必要とするようになった。俺にはもう心配なことも苦痛もない。それに」
国王と言っても俺にとっては子どもだ、と小声で残し、ムスタファは少し笑った。
「……ハムザはこれからやりたいこととか、ないのか?」
「イブラヒムの身分も回復されて、ちゃんと墓も作られた。俺個人の望みは叶ったから、これ以上はない。これからはイブラヒムの家族を陰で見守っていく」
そう言って微笑するハムザの眼はどこか寂しそうではあった。ハムザはムスタファにたくさんのことを教えてくれた。これみよがしな優しさではないけれど、いつもタージとムスタファをそれこそ親のように見守っている。ムスタファはハムザにも幸せになってもらいたいと願うのだった。
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