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「東の部隊は変わりないか?」
「今のところ攻撃される様子はありません。これまでも部隊編成による牽制は何度かありましたが、普段から駐屯軍が目を光らせていますから特に何事も起こりませんでしたし、こちらに援軍がいると知ればなおのこと容易に手を出してこないでしょう」
「何も起こらなかったとしても、暫くは住民も避難場所で待機させておいた方がよさそうだ」
「住民といえば、ムスタファ大尉にみんな感謝していましたよ」
鉱山では周辺に住んでいる村人たちが採掘をしている。ムスタファは派遣される際、紛争が起こった場合を考えて住民に被害が出ないようあらかじめ避難させろと駐屯軍に指示しておいた。上官からは勝手なことをして手間を増やすなと叱責されたが、これまで襲撃されようが戦争が起きようが、住民は巻き込まれて命を落とすばかりだった。国が鉱物を財源に交易ができているのは各地の住民が採掘をしているからだ。国のために働いている彼らを守るのは軍人として当然の務めなのではないかと思ったのだ。これも以前の自分なら考えもしなかった。全部タージに感化されてしたことだった。
気付けばムスタファはいつもタージのことを考えているし、今まで見てきた彼の行動に影響されている。
今頃何をしているだろうか。夜は一人で寝ているのか、それともハムザと寝ているのだろうか。無茶をして問題を起こしたりしていないか。
「大尉もそろそろ休んでください」
「不思議と眠くないんだ。俺にかまわずお前たちはしっかり休め」
中途半端に休むとタージの心配ばかりになりそうで、休みたくなかった。けれども、
「そうは言っても大尉が休んでくださらないと休みにくいじゃないですか」
笑いながら言われて、部下に気を遣わせていたことを反省する。ムスタファは素直に聞き入れて、ようやくまともな休息を取ることにした。
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