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 ほとんど休むことなく走り続け、都に着いたのは夜が明けた頃だった。王宮に一歩踏み入れた瞬間からムスタファは背筋を凍らせた。  いつも清潔に磨かれている大理石の中庭に、兵士が何人も横たわっている。真っ赤な血だまりに飛び散った血痕。噴水も止まっていて妙な静けさが不気味だった。ムスタファは息をしている者がいるか確認したが、全員死んでいる。 誰が殺したのか。彼らは誰を襲ったのか、あるいは襲われたのか。嫌な動悸が止まらない。息絶えている兵士たちの中で、一人だけ白い長衣を着た男が倒れているのを見た。 「……ハムザ!?」  うつ伏せで倒れているハムザを仰向けにすると、胸から腰に掛けて白い服が真っ赤に染まっていた。手を当てるとかろうじて息はある。 「ハムザ、しっかりしろ! 何があったんだ!」 「………ム……タ……、ター……ジの……」  切れ切れの声でタージのところに行けと訴えている。瀕死のハムザを置いていくのは辛いところだが、死ぬなと残してムスタファはタージのところへ向かった。  宮殿内にもいたるところに遺体が転がっている。女官や宦官までもが殺されているのだ。よくよく見てみれば、皆タージの従者だった者ばかりだ。血痕を追ってタージの部屋に着いた時、ムスタファが開ける前にゆっくり中から扉が開かれた。出てきたのは返り血を浴びたタージだった。右手に血で染まった剣を握っている。 「タージ! よかった、無事だったのか!」  タージは蒼白な顔で呆然としていて、開口一番「ごめん」と謝った。
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