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けれども再会の余韻も束の間、ムスタファは殺気を感じて腰から剣を抜いた。瞬間、タージの背後から突如ナシルが襲い掛かってきた。ムスタファはタージを背中に隠し、剣でナシルの鋭利な刃を受け止めた。互いに一歩も引かず、交えた剣を挟んで顔を見合わせる。
「貴様、ここで何をしている!? さっさと戦地に戻らぬか!」
「殿下に危機が迫っていると知り、急きょ戻ってきた次第です……!」
「己の任務もまともに果たせぬ役立たずが。敵国ではなく君主に刃を向けるのか、不届き者め」
「私や軍を殿下から離したのは殿下の命を狙うためですか? そのために無意味な戦争を始めようとなさったのですか?」
ギィン、と剣を弾いてナシルはムスタファから離れた。
「玉座を巡って兄弟が殺し合うのはどの国でも当たり前にやっていることだ。見てみろ、私の精鋭部隊が全員殺されてしまった。こんな危険人物を置いておけるか?」
「急襲を受ければ誰だって反撃します。殿下は陛下のお命を狙っているわけじゃありません。ただ純粋に国民を想っているだけで……」
「最初は誰もがそう言うものだ。私も最初はそうだった。父上のやり方に辟易して私は正しいやり方で国を導くのだと。だが、結局は何かを犠牲にしなければならないことに気付くのさ。父上は見境なく国民を犠牲にして鉱山で酷使することで国を支えた。私は犠牲になる対象を変えただけだ。罪人、戦争捕虜、貧困層。奴隷として売るのは、いても価値のない人間どもだ」
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