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 ムスタファは視界が歪んだ。人の命を軽んじているのは同じことだ。酷薄非情なナシルに、ただただ失望した。かつてナシルを慕っていた自分を恨みたいと思うほど。 「タージもそろそろ気付くはずだ。それとも既に気付いていて、何を犠牲にしなければならないかと悩んでいるのではないか? え?」  ――怖いんだよ、いつか謀反を起こそうとしたセンチネルの族長みたいになりそうで。目先の利益しか考えない人間になりそうで。――  タージはまだ動揺したまま、その場にへたり込んでいる。ナシルの言葉に反論もしない。ムスタファはタージの心が壊れるのではないかと怖くなった。タージからどす黒い負の感情が漂っている。きっとタージは心のもっと深いところに闇を抱えている。そこをナシルが抉ったら、タージの信念も努力も無になりそうで恐怖だった。 「陛下、お止めください」 「タージが葛藤を克服した時には自分の思うまま国を動かしたくなるさ」 「タージはそんな奴じゃない! 人一倍生きる苦しみを知っているからこそ国民を犠牲にしたりしない! あなたには感情がないのか!」 「感情など最も不要なものよ。そんなものに振り回されるから精神を病むのだ。めでたい奴め。あのまま私の駒として何も知らずにいればよかったものを、余計な知見を身に着けおって。お前も死ね!」
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