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ナシルは勢いよく剣を振り被る。タージには劣るといってもナシルも能力を使いこなしたセンチネルだ。神経のコントロールが上手いのか、重くて仰々しい剣を片腕だけで難なく振り回す。ムスタファはそれを剣身で受け止めた。立て続けにムスタファの心臓を狙って刃を突き出してくる。反撃の隙も与えないほどスピードが速くてムスタファは防ぐばかりだったが、ナシルにはパワーがない。ナシルが腕を引いた瞬間に身を屈めて間合いを詰め、再び突き出してきた剣を下から弾き飛ばした。ムスタファの力を跳ね返す力はナシルにはなく、ナシルはあっさり武器を手放した。
しかし、ムスタファは攻撃はできなかった。この期に及んで王に傷をつけるのはためらわれたからだ。そんな甘さを出してしまったために、ナシルが隠し持っていたナイフを投げ付けてきたのをかわせなかった。ファイサルから受けた傷の上から脇腹に刺さり、膝を崩してしまった。
「……ムスタファ……!」
タージがよろよろと立ち上がって、ムスタファの元に寄ろうとするが、ナシルがそれを許さない。タージの前に立ちはだかって阻んだ。
「いい夢を見させてやっただろう?」
「……兄上」
「お前に兄などと呼ばれたくもないわ。私は母上からお前の存在を聞いた時から気が気でなかった。いつ私を殺しに来るかと恐怖だった。見たことも会ったこともないのに、不思議と生きていると確信していたからな」
ナシルがじりじりとタージに迫り、壁際に追いやっていく。
「一刻も早く殺さねばと思っていたが、お前の匂いは知らなかったから探しようがなかった。だからお前が自ら王宮に来た時はおののいたさ」
ムスタファは脇腹からナイフを抜き、早くタージを庇わなければと立ち上がろうとしたが、思いのほか出血が多くて目がかすんだ。
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