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「ただ、お前は想像以上に役に立った。面倒な地方の整備をせっせと頑張ってくれたからな。お前に染み付いた匂いを辿ることで、お前のかつての仲間を始末することもできたし」
「俺の……せい?」
「そうだ、可哀想に。お前の我儘のせいで、お前に関わった者はみんな死んでしまった。お前さえ生まれてこなければイブラヒムが身分を失うことも、ハムザや仲間が死ぬこともなかったのに。みんな、お前のせいだ」
タージは頭を抱えてその場に蹲った。はあはあと呼吸を乱して激しく混乱している。
「一時でも兄弟の真似事ができて嬉しかったか? 正々堂々と政務ができて充実したか? 少しでも夢を叶えられてよかったじゃないか。その思い出を持って永遠に眠るといい」
ナシルが再び剣を手にしてタージに振り上げた時、ムスタファは足を踏ん張り、ナシルの背中に向かって突進した。ナシルはタージに掲げていた刃を急きょ身を翻してムスタファに向かって振り下ろしたが、ムスタファはギリギリで避けてタージのところへ駆け寄る。ナシルを相手にする前にタージを避難させるのが先だった。
「タージ、立って逃げろ」
タージは蹲って震えたまま動かない。腕を引っ張って立ち上がらせようとしても岩のようだった。その隙にナシルに背中を切りつけられたが、なんとか倒れずに持ち堪えた。
「うぁ……! タージ、はやく……」
「ムスタファ、むすた……ごめ……」
「精神が混乱しているセンチネルに何を言っても無駄だ。ここで死なせた方が楽になるぞ」
自分が死んでもタージだけは死なせたくなかった。仲間が死んでいたとしても、ウカーブのようにタージを責める人間がいたとしても、かつてタージを称えていたスラムの住民を思い出せば、あの美しい獅子の姿を思い出せば、タージはこんなところで死んでいい人間じゃない。
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