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「たのむ、タージ、立ってくれ……」
抱き起こそうとすると血が流れ出て足が滑る。
「いっぺんに串刺しにしてくれるわ!」
頭上からナシルの剣が振り下ろされ、咄嗟にタージに覆い被さったが、ナシルの剣はムスタファの背中を突き刺す直前でガシャン、と音を立てて床に落ちた。振り返るとナシルは口端から血を流していた。その背後には、
「ハムザ!」
いつの間にここまで近付いていたのか、ハムザがナシルを後ろから刺したのだ。ハムザはぐいぐいとナシルの体に刃をねじ込む。
「き……さま……」
「血の匂いで分からなかっただろう。……嗅覚しか発達していないから、耳でも目でも気付けない……半端なセンチネルめ」
ハムザの声に反応してか、タージがゆっくり顔を上げる。
「ハムザ、生きてたのか……」
「情けないぞ、タージ。お前は王に……なる男だろう……イブラヒムと約束、した……」
ナシルは出血とともにみるみる青白くなり、膝が崩れる。ハムザももともと重傷を負っていたため瞼が落ちかけだった。呼吸も途切れ途切れで、ナシルと一緒にその場に倒れる。
「おれたちの王は……タージしかありえない……そうだろ、ムスタファ……」
「死ぬな、ハムザ、しっかりしろ!」
ムスタファの呼びかけにはもう微笑しか返せない。
「……イブラヒムと息子に、……会える」
ハムザはそれきり答えなかった。それなのにナシルは力を振り絞ってまで自分を刺したハムザに憎しみを込めて剣を突き刺した。
「忌々しい……! 笑いながら死におって……!」
「やめろォ!!」
うわぁっ、とタージが泣き叫んだ瞬間、凄まじい衝撃波を受けた。至近距離にいたナシルもハムザも、ムスタファも吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。タージのシールドが壊れて精神が暴走した瞬間だった。反動で床も石柱もひび割れ始め、天井のシャンデリアがけたたましい音を立てて崩れ落ちた。タージの荒れ狂った感情に共鳴するように、大地が揺れだしたのだ。
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