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「た、タージ……」  センチネルの暴走というのはここまで激しいものなのか。タージのもともと持っている力が大きいのもあるかもしれない。  このままでは建物が崩れて瓦礫に潰されてしまう。ムスタファは朦朧とする意識を必死で保ちながらタージに近付き、頭を抱えて縮こまる彼と、せめてもの思いでハムザの遺体を担いでその場を離れた。タージの苦しみが大きすぎてムスタファまでも気が狂いそうな頭痛に襲われた。思うように力が入らず、足がもつれそうになりながら出口を目指す。ムスタファが通ったところから宮殿が崩れだし、なんとか中庭まで出られたところで完全に崩壊した。黄金のドームも真っ二つになり、ナシルとタージの部屋があったはずの塔も瓦礫の山になる。間一髪で脱出はできたが、タージの精神を鎮めなければならない。 「タージ、落ち着け!」  肩に触れると思いきり振り払われる。 「俺に触るな! みんな死んだっ、俺はやっぱり間違ってたんだッ! 俺さえいなければ……っ、俺はお前も殺してしまう! だからもうほっといてくれ、俺を殺してくれ!」  それでもムスタファは頑なに殻に閉じこもろうとするタージを抱きしめた。頭が痛くて吐きそうだ。すぐにでも意識が飛びそうだが、この状態のタージを置いて死ねない。ムスタファはシールドを固く張って神経を集中させた。いつも視えている部分よりもっと深い層に届くまで、自分の精神をタージの精神と同期させる。  色んなものが視えてくる。任務に出るムスタファを見送る心細さ、タージにごまを擦りにきた大臣への侮蔑、進まない政策への苛立ち、孤独、後悔、ムスタファがいなかった間の、色んな感情が視える。けれどまだ浅い。心のもっと奥底まで覗きたい。 「タージ、だいじょうぶだから、……俺は死なないから……」  やがてムスタファは「視る」感覚から「入る」感覚を掴んだ。
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