10

9/19
前へ
/171ページ
次へ
 ふっ、と周りを見渡すと、ムスタファは荒れ果てた広大な大地に立っていた。空は無色。音もない。風もない。人の気配も獣の気配もない。ただ、ひどく蒸し暑い。ムスタファはここが現実世界でないことを咄嗟に理解した。タージの精神内にいるのだ。なんとも広くて寂しい場所だった。  果てのない荒野を歩き回ると、アカシアの木の根元で誰かが蹲っていた。小麦色の肌と柔らかい金髪。膝を抱えてすすり泣いているのは、タージだった。だが幼い。五歳くらいだろうか。精神内ではこんな小さな子どもなのかとムスタファは戸惑った。 「……タージ」  声を掛けると少年のタージはひどく怯えた目でムスタファを見た。 「だれ? また僕を攫いに来たの?」 「攫わない。どこにも連れて行かない。一緒に戻ろう」  タージの前にしゃがんで手を差し伸べたが、タージはぎゅっと膝を抱えて首を横に振った。 「僕には家がない。お父さんとお母さんに捨てられたの、僕はいらない子なの」 「そんなことない、タージはみんなに必要とされてる」 「大人はそうやって僕を騙して、こわいおじさんのところに連れて行く。イブラヒムはどこ? たすけて」
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加