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ふっ、と周りを見渡すと、ムスタファは荒れ果てた広大な大地に立っていた。空は無色。音もない。風もない。人の気配も獣の気配もない。ただ、ひどく蒸し暑い。ムスタファはここが現実世界でないことを咄嗟に理解した。タージの精神内にいるのだ。なんとも広くて寂しい場所だった。
果てのない荒野を歩き回ると、アカシアの木の根元で誰かが蹲っていた。小麦色の肌と柔らかい金髪。膝を抱えてすすり泣いているのは、タージだった。だが幼い。五歳くらいだろうか。精神内ではこんな小さな子どもなのかとムスタファは戸惑った。
「……タージ」
声を掛けると少年のタージはひどく怯えた目でムスタファを見た。
「だれ? また僕を攫いに来たの?」
「攫わない。どこにも連れて行かない。一緒に戻ろう」
タージの前にしゃがんで手を差し伸べたが、タージはぎゅっと膝を抱えて首を横に振った。
「僕には家がない。お父さんとお母さんに捨てられたの、僕はいらない子なの」
「そんなことない、タージはみんなに必要とされてる」
「大人はそうやって僕を騙して、こわいおじさんのところに連れて行く。イブラヒムはどこ? たすけて」
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