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 ムスタファが近付けば近付くほどタージは怯える。幼い頃は大人たちからひどい扱いを受けたのだろう。奴隷狩りに遭ったのも一度や二度ではないのかもしれない。 「俺がタージとずっと一緒にいるから。イブラヒムを探そう」  そう言って小さい体を抱き寄せた。……はずだが、腕の中にタージはいない。突然姿が消えて、どこに行ったのかとキョロキョロと見渡していると、 「お前、誰だよ」  後ろから剣を首に当てられた。ゆっくり振り返ると、今度は成長したタージがいた。だが目つきが違う。吊り上がっていて、眼光が鋭くて、憎しみしかない眼。立ち上がって向かい合うと少し背が低かった。心なしか声も幼い。ムスタファに出会う前のタージだろう。 「迎えに来たんだ」 「俺はお前なんか知らない。勝手に入ってくんな、出てけ」 「タージが俺と一緒に帰るって言うまで出て行かない」 「うるせぇ! 俺には帰る場所なんてないんだよ!」 「俺のところに帰ってこい。俺は絶対お前を傷付けないし、独りにしないから!」
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