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「タージ、大丈夫か」
「……もう死にたい……」
「死にたいなんてお前らしくないぞ。目を開けてくれ」
タージは瞼を震わせ、少しだけ目を開けた。けれども視点は定まっていないし、覇気がない。
「もう疲れたんだ。産まれてこなければよかったのに……俺なんか」
「お前が産まれたから、お前がいたから、大勢の貧しい人達が助かったんだぞ。お前の……タージのおかげなんだ」
「うそだ、ほんの一時救われたからってそれで解決したわけじゃない……俺は結局誰も助けてやれなかった。みんな死んだ。……イブラヒム、ブルハン……ハムザ……俺のせいだ。俺はやっぱり忌み子なんだ」
こんな廃人みたいなタージは初めて見た。ムスタファの知っているタージはいつも自信に溢れていて、溌剌と力が漲っている、困難をもろともしない男だ。それとも、本当はそれが偽りでこっちが本来の彼なのだろうか。
「お前が死んだら、俺はどうなるんだ。お前の側にいるって約束したのに」
「約束……」
「そう。今まで俺は国王や上官の指示に従うだけの、何も知らない馬鹿でしかなかった。でもタージに出会ったから、色んなものを見て、色んなことを知ることができた。ガイドの能力も覚醒した。――嬉しかったんだ。お前の役に立てたことが」
「……センチネルの役に立ちたいなら、……俺じゃなくてもいい」
「タージじゃないと嫌だ! 俺は自分が尊敬できる主のために尽くすのが自分の使命だと思ってる。俺はタージと一緒に過ごして、お前みたいな奴が主だったら命を懸けたいと思った。それに……」
タージはひとつも表情を変えず、ずっと生気のない顔でムスタファの声を聞いている。いや、聞いているのだろうか。聞こえているのだろうか。それすら不安になるほど、タージは憔悴している。
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