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―――
「ムスタファ、ちょっと」
ある夜、天幕の外で見張りをしていたらタージがムスタファを呼んだ。ついでに周りにいるムスタファ以外の衛兵を追い払う。護衛をつけないわけにはいかないと粘られても、
「つーか、自分の身は自分で守れるしな」
と、一蹴しておしまいだ。ムスタファだけを天幕の中に招き入れ、衛兵たちが遠ざかったのを耳で確認すると、待ち侘びたと言わんばかりにムスタファに抱き付いた。
「あ~~~~~! やっと時間ができた」
ムスタファは柔らかく抱き返してタージの頭を撫でた。天幕内の小さな寝台に一緒に腰掛ける。ムスタファはタージを膝の上に横抱きにして、ねだられる前からたくさんキスをした。今までも人目を盗んでキスをしたり抱きしめることはあったが、あくまでケアとしてだった。今は純粋に愛情表現として、したかった。
「本当に外に誰もいないか?」
「大丈夫。半径五十メートル以内にはいない」
「五十メートルか、微妙」
「衛兵の中にセンチネルがいたら、丸聞こえだな」
他人事のように笑って、またキスをする。人が一人やっと寝られるくらいの狭い寝台に倒れ込んだ。
「ちゃんとした部屋がなくて不便じゃないか?」
「むしろ宮殿が窮屈だったから、今のほうが過ごしやすい。もういらねーんじゃねぇか、宮殿とか」
「そういうわけには……」
「冗談だけどさ」
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