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タージはくすくす笑う。ムスタファはその無邪気な笑顔を見ながら、タージが精神世界で「王になるのはイブラヒムに言われたから」と言っていたことを思い出した。ムスタファはずっとそれが引っかかっている。ナシルがいなくなった今、国を正統に引き継ぐのはタージしかいない。このまま王になっていいのか、タージはどうしたいのか。
「辛くないか?」
色々考えて、簡潔にそう訊ねた。タージは含み笑いをしたまま少し黙り込み、
「……荷が重いなって思うこともあるけどさ、やっぱり俺は苦しんでる人間をほっとけねぇよ。それが正しいか正しくないか分かんないけど、何もしないよりずっといい」
「うん」
タージはムスタファの腹にしがみついた。微かに伝わる不安。けれどもそれよりもっと大きな温かいものが確かにある。自信とか安心、というものではない。
「だからムスタファ、ずっと俺を見ててくれ。俺が間違ったことをしそうになったら教えてくれ。弱気になったら怒ってくれ。馬鹿みたいに正直で心が綺麗なムスタファなら、俺は安心して頼れるから」
この心臓を包み込むような温かいものは、信頼なのだ。ムスタファは嬉しくて有難くて誇らしかった。
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