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「あと、タージの精神世界でイブラヒムに会った」
タージは目を大きくしてムスタファを見上げた。睫毛に雫が載っている。
「お前の中にはいつもイブラヒムがいる。でもイブラヒムが自分を愛してるのか憎んでいるのか分からなかったから、考えることを避けてきたんだろ。……イブラヒムはちゃんとタージを愛してたよ。精神世界でタージを助けてやってくれと頼まれた」
「……そうか」
イブラヒムの墓に添えていたアカシアの葉が風に揺れて飛んでいった。
タージはムスタファからの真っ直ぐな想いを受け止めたことで、自然と他の人間の想いも素直に受け止められるようになった。タージは自分が思っているより愛されていたことを少しずつ知っていく。
「あとさ、先代の王はともかく、母后様はお前を死なせなくなかったから王宮から出したんだろう? 殺したくなかったから。我が子を捨ててでも生きていて欲しいと願ったんだろう。それは紛れもなく愛じゃないか」
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