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エピローグ
あれから一ヶ月。記憶を取り戻した世界は、以前と特に変わらず回り続けている。
街も人も、傍目には黒い雨が降っていた時とほとんど同じ。強いて言えば、晴れの日に傘をさす人をあまり見なくなったぐらいか。
結果だけ見れば、ミツキのしたことなんてその程度だったと言えるのかもしれない。
でもきっと中には、大事な物を失ったり、取り返しがつかなくなったり、悪い方向に人生を狂わされてしまった人が大勢いるはずだ。
今の自分に何ができるのかは分からないけれど、これから一生かけて償っていきたい。と、ミツキはそう考えていた。
さて。今日は十年ぶりにアキラのお墓参りに来ている。記憶では確か、黒い雨を降らす前に変身魔法をかけておいたはず。森の奥の奥、誰も立ち入らない場所にひっそり建てたお墓は今も無事だろうか。
「はぁ、はぁ……見つけた」
目印となる大木の元にやっとのことで辿り着いたミツキは、頭の中で変身を解くよう念じた。すると大木の隣にあった白くて丸い岩が、記憶の中のそれより幾分汚れの目立つ墓石へと姿を変えた(十年も放置していたのだから当然だ)。
やれやれと思いつつ掃除用の柄杓を魔法で取り出そうとした、その時だった。花立ての中に、まだそこそこ新しい菊の花が供えられていることに気付いた。
変身魔法がかけられていて、普通の人にはただの石にしか見えていなかったはずのその場所。そういえば彼は、魔力の残滓を追ってきたと言っていたっけ。
「……ありがとう、タクトさん」
返事の代わりとでも言うように、一陣の風が吹いてミツキの頬を撫でた。
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