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「おはようございます。よく眠れました?」
「おはようございます。はい、お陰様で」
翌日。タクトは少し遅めの起床をして居間に降りてきた。昨日と同じ長袖青コート姿だ。
その後、ミツキは洗顔から戻った彼に簡単な朝食と、コーヒーを差し出す。目玉焼きと厚切りベーコン、サラダ、パン。コーヒーは昨日と同じブラックだ。
「朝食まで……ありがとうございます」と彼は申し訳なさそうに頭を下げていた。ミツキは「粗朝食ですが」と言って笑った。
窓の外では今日も黒い雨が降っている。黒い雨は普通の雨と違って雨雲がなくても降ることから、太陽の日差しと雨が同時に降り注ぐというあべこべな状態になっている。こんなに晴れていても、今のままでは人々は傘を手放すことができない。
人類が記憶を失って早十年。黒い雨を晴らして記憶を取り戻せるかは、今、ミツキの肩にかかっている。
「朝食が済んだら、お暇させていただきます」とタクトが言った。
「分かりました。でも、その前に一つ聞かせてください」
ミツキの声のトーンから真剣さが伝わったせいか、タクトはすぐに顔を上げた。
ミツキは静かに呼吸を整え、尋ねた。
「タクトさん。あなた、魔法殺しですよね?」
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