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「……はい。そうです」
タクトは少しの間の後そう言って、持っていた箸を皿の上に置き、左手でコートの右袖を掴んで捲り上げる。彼の右手首には確かに、三日月型の赤い痣が浮かんでいた。
「どうして分かったんですか?」
「タクトさんのお母さんのお話です」
「お袋の?」
「お母さんが覚えているというタクトさんの子供の頃の話は、タクトさんが物心つく前だとして、今のタクトさんの年齢から逆算するとおそらく十年以上前。つまり、黒い雨が降り始める前のことです。
黒い雨によって失われるはずの記憶を保持しているということは、タクトさんのお母さんには魔女の魔法が効いていない……すなわち、魔法殺しであるということ。そしてお母さんが魔法殺しであるなら、その息子であるタクトさんも必然的に魔法殺しということになる」
「なるほど……お見事です。俺は自分から正体を明かしてしまっていたんですね」
タクトは観念したとでも言うように肩をすくめ、笑った。
ミツキは安堵感からフゥと息を吐いた。正体がバレても逃げたり敵意を向けたりする様子はない。おそらくそれは、ミツキに協力してくれるという意思表示でもある。
十年来の悲願達成に向けた大きな前進だ。
「タクトさん。昨日言ったとおり、僕にはどうしても思い出したい記憶がある。お願いです。魔女探しを手伝ってくれませんか?」
「いえ、その必要はもうありません」
「えっ」
予想外の返答に情けない声が漏れる。
タクトは右手の人差し指を、ゆっくりとミツキに向けた。
「魔女の正体は……あなたです。ミツキさん」
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