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今度は声も漏れなかった。困惑と動揺で固まったミツキに対し、タクトは優しげな表情で告げる。
「魔女は自らの容姿や居城を変身魔法で偽ることができる、でしたよね。俺には最初から、ミツキさんの本当の姿が見えていましたよ。黒いローブを身に纏った女性の姿。そしてこの家の本当の姿も。
ミツキさん。世界に黒い雨を降らせている魔女は、あなただ」
「僕が……私が魔女?」
ようやく絞り出した声は掠れていた。心当たりはまるでない。だけど昨日からのタクトの態度や言動を考えても、彼が嘘を吐いているとは思えない。「私が、魔女?」もう一度自分自身に問う。
「信じられないと思いますが、事実です。試しに姿を元に戻すよう念じてみてください。きっと魔法が解けるはずです」
言われるがままに念じる。すると、どこからともなく噴き出した白煙とともに、風船から空気が抜けるかのようにみるみる身体が萎み、タクトが言った通りの黒いローブ姿に変貌した。
部屋も、白を基調とした洋風のものから禍々しい黒に覆われたものへと変わった。ただテーブルの乗ったマグカップだけがさっきまでと変わらない見た目で残っている。そのことがかえって、これが夢でもなんでもない事実であることを証明しているようだった。
「なんで……」
なんで黒い雨なんて降らせたのか。世界中の人から記憶を奪い、不自由を強いて。おまけに自分も黒い雨の影響でそのことをすっかり忘れ、この十年魔女探しをしていたなんて。笑い話じゃ済まない。
「きっと、どうしても忘れたいことがあったんじゃないでしょうか。それがなんなのかまでは俺には分かりませんが」
「……あっ。昨日言っていたタクトさんの探し物って」
「お察しの通り、あなたのことです。魔法殺しの使命として、黒い雨を止ませるためにずっと探し続けていました」
申し訳なさと恥ずかしさのあまり、ミツキは小さくなることしかできない。こんなあどけなさの残る歳下の若者に迷惑をかけた上、全て見透かされていた。「ごめんなさい」とひとりでにこぼれた。
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