黒い雨

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「ミツキさんは本当は、誰かに見つけて欲しかったんじゃないでしょうか」 「え?」 「俺がこうしてあなたの元に辿り着けたのは、世界のあちこちに魔力のがあったからです。まるで見つけてくれと言わんばかりに。  それにミツキさんの家にあった魔女に関する書物や、思い出のマグカップ。本気で全て忘れるつもりなら、それらも変身魔法で姿を変えてしまえばよかった。でもあなたはそうしなかった……きっと、心のどこかで忘れたくないと思っていたんじゃないでしょうか。  だって、言っていたでしょう。絶対に忘れちゃいけない大切な思い出がある、って」  タクトの手が優しく肩に置かれる。ミツキは我慢することができず、わんわんと声を上げて泣いた。  もうアキラは居ないという喪失感と、彼の存在を忘れたままにせず済んだ安堵感。  そして、彼以外にもまだ自分を理解してくれる人が居たことへの安心感。  それら全てがごちゃ混ぜになり、涙となって排出された。止まることを知らず、いつまでも、いつまでも。  窓の外には、雲一つない突き抜けるような青空が広がっていた。
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