189人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「お母さんの知り合いを紹介するって話したじゃない? 先方の方に手違いで話が進んじゃってるばかりか、相手がアンタを気に入ったみたいで、会う気満々になってるみたいなの。だから悪いんだけど、会うだけあって欲しいのよ」
「はあ!? 嫌だよ」
「お願いよ。母さんの顔を立てると思って」
「会うって、そっちに帰らなきゃいけないんでしょ?」
「それが、相手の方が来月下旬にそっちに行く用事があるから、その時に時間を作って貰いたいって言うのよ。だからね、一度、会うだけでいいから。後はお母さんの方で上手く断っておくから、ね?」
やっぱり、嫌な予感は的中した。
冗談じゃない。会うだけとか言っておきながら上手く丸め込んで結婚させようとしてるに決まってるもの。私に彼氏がいないからって。
「嫌ったら嫌!」
「会ってくれたら、お母さん暫くうるさく言わないわ」
「嘘ばっか。そんな事すぐ忘れてまた変な話持ち掛けて来るじゃない」
「今度は約束するわ。だからね、お願いよ」
ここで折れてしまえば母の思う壷。私は何としてでも断る事を徹底する。
そして。何度か続いたやり取りは私の言葉で終わりを告げる事になる。
「あのね! 実を言うと、つい最近彼氏が出来たの!」
母を諦めさせる為にはこの嘘しか無いと、私は咄嗟に「彼氏がいる」という嘘をでっち上げる。
「……嘘ばっかり。前もそんな事言って、結局すぐに別れたって。お母さん、もうそんな嘘には騙されませんからね」
「今度は本当なの! その、まだ付き合いたてだし、相手は忙しい人でデートとかもなかなか出来なくて、付き合ってる実感が無いっていうか。それに、また上手くいかなくてすぐに別れたって話したらお母さん怪しむでしょ? だから黙ってたの!」
よくもまあ、こうポンポン嘘が口から出てくる事。
とにかく母に諦めて貰いたい一心で嘘を並べ立てていく。
そんな私の話を聞いていた母は、電話越しでも表情が分かりそうな程の大きな溜め息を吐くと、
「……分かったわ、そこまで言うなら、来月頭くらいまでに一度その彼を連れてらっしゃい」
まさかの台詞が返ってきたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!