episode1

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 笹葉くんはこの会社の社長の一人息子で、いずれは会社を継ぐ人間だ。  そんな彼とは同い歳で同期なのだけど、彼は異性が苦手なのか、業務以外で女性と一緒に居るところを見た事が無い。  けれど、次期後継者で仕事も出来て、おまけに容姿も良いとなれば周りの女子たちが放っておくはずも無く、せめて業務中だけでも彼の傍に居たい、彼に褒められたい、仕事を任されたいと常に仕事の奪い合いが起こったりする。 「いいなぁ、実玖先輩」  笹葉くんが離れて行ってすぐ、隣の席から声を掛けてきたのは人懐っこい笑顔が似合うショートカットの女の子で、後輩の砂原(さはら) 温子(あつこ)。 「何が?」 「何がって、笹葉先輩からお仕事を頼まれた事ですよ」 「えー? 温子ちゃんだって、頼まれるでしょ?」 「たまーにですよ。しかもコピー取りとか」 「いいじゃない、仕事なんて頼まれない方が」 「そりゃあ、笹葉先輩以外からの仕事は嫌ですけど、彼からの頼まれ事は別なんです!」 「分からないわ。私だったら、自分の仕事で手一杯だから頼まれたくないもの」 「実玖先輩は笹葉先輩に興味無さ過ぎですよね。あんなに格好良いのにぃ」  まあ一般的に見て、確かに笹葉くんはイケメンの部類に入ると思うけれど、二次元が大好きな私にとっては正直どうでもいい事で、仕事を頼まれたいとも思っていないから、温子ちゃんの話には全然共感出来ないまま、話を続ける彼女に時折耳を傾けつつ仕事の準備を始めていた。
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