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「お金の問題はそんなに気にしなくていいんだけど、いかんせんサイズが合うかどうかとかはわかんないからさ。あ、ひょっとしてもう規格測り終わってたりとか?」
「はい。ピックアップも終わってますので、資料はこの後提出します」
「さすが。君はよく気が付くね、まだ入ったばかりなのにすごいよ」
正直にものを伝えると、スティーブは白い頬をやや染めて“どうも”と小さく呟いた。あまり感情を表に出すのが得意ではないのかもしれない。自分の体が弱いことを気にしていたようだし、それで人にどうこう言われて辛い思いをしたこともあったのかもしれなかった。
有象無象が言う言葉など気にしなくていい。聞き入れる価値のある言葉だけ耳に入れればそれでいい。それがシンシアの信条ではあったが、言うほど簡単でないことも理解している。繊細な人間ほど、雑音をスルーするのは難しいことであるはずだ。
「シンシア様は……人をよく褒めるんですね」
スティーブはやや躊躇いがちに口を開いた。
「どうしてです?特に、俺みたいな役立たず、なんでそこまで気にしてくれるのかなって不思議なんですが。面接でも正直、俺一人だけ落ちると思ってたんで」
「理由はもう言ったじゃん。君が適任だと思ったからだけど?」
「でも、力仕事なんかできないし」
「力仕事ができない人間に価値はないの?違うでしょう。どんな人間だって、その人にしかない魅力や取り柄があるもんだよ。あんまり卑下するの良くないナイ。君は十分頑張ってるし」
「なんていうか、その」
困惑した調子で、こちらを見る少年。
「シンシア様は、人の良いところを見抜くのが得意なんですね。普通人間って、相手の嫌なところばっかり気にしてしまったり、目に留まってしまうものだというのに」
それは、時々人に言われることだった。長所を見抜くのが得意。それは、シンシアが唯一誇れる己の利点でもある。
同時に、何でそんなに人の長所ばっかり見られるのか、というのもよく尋ねられることだった。実際、人間は人の嫌なところばかり上げ連ねてしまうことも少なくない生き物なのだから。
「……多分、家族に恵まれたからかな」
その理由は、大体わかっている。
自分の長所は自分が作ったのではない、家族が作ってくれたものだと。
「スティーブも知ってると思うけど。私には双子のお姉ちゃんがいてね。二人とも四つ年上だったからか、幼い頃からすっごく可愛がってくれたんだよねぇ。ずっと妹が欲しかったんだってさ」
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