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それは、紛れもなく心からの言葉なのだろう。姉の声は優しい。だが同時に、強い圧力をも感じるのは事実だ。
何が何でも自分に票を入れろ、デイジーを選ぶな。彼女はそう言っている。
「お、お姉様、その」
ここで結論なんて出せない。出したいはずはない。シンシアは視線をさ迷わせながら告げた。
「お姉様のお気持ちは嬉しいです。でも私はまだ、ダリア姉様とデイジー姉様のどちらの方がいいかというのは、その、えっと」
「まだ決められないの?貴女は優柔不断すぎるわ。明白じゃないの、どちらが相応しいかなんて」
「で、でも」
「いい?貴女がデイジーのことも愛しているのはわかるわ。けれど、愛情は時に正しい判断を狂わせてしまうものよ。デイジーとわたくし、学校で成績優秀なのはどちらだと思って?教授からも、自分達の研究室に来ないかと引く手あまたですのよ。わたくしならば、お父様の仕事も手伝える。家業を引き継ぐことができ、頭脳明晰で将来有望なわたくしこそを跡取りに選ぶべきです。対してデイジーはどう?」
「そ、それは……」
「あの子は未だに自分のことを名前で呼ぶんですのよ?敬語も苦手、マナーもなってない。頭も弱くて愚鈍だわ、使用人たちとの正しい距離感もつかめてない。まあ使用人たちを取り込んで、自分への指示を上げたいっていう薄汚い魂胆なんでしょうけどね。子爵家の次女が料理や皿洗いなんてできる必要もないというのに、なんてみっともない」
なんで、そんな言い方ばかりするのだろう。シンシアは泣きたい気持ちで俯いた。
デイジーは確かに使用人たちと親しくしていることが多い。でもそれは本来、貴族として以前に一人の人間としても素晴らしいことであるはずなのに。
それがわからない姉ではないはずなのに。
「早く結論を出しなさいね」
そして、当たり前のようにダリアはこんなことを言って話を締めくくるのだ。
「何度も言うけどシンシア、貴女とこの家を正しく守っていけるのは……私一人だけなのよ?いいわね?」
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