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当然、愚痴を言ってくるのはダリアだけではない。
ダリアが部屋に戻っていくや否や、今度はデイジーがシンシアの前に来た。そして、呆れたようにため息をついて言うのだ。
「あんたも大変ね、シンシア。まーたお姉様の悪口に突き合わされてたんでしょう?」
「まあ……」
自分も姉の悪口を言いに来たはずなのに、こういう時ダリアはぽーんとかるく自分を棚上げしてしまうのだ。
「来月の親族会議で、跡取りについて決まっちゃうっていうのが濃厚だけど。どうしてダリア姉様は、そんなに跡取りになれる自信があるのかしら。さっきのお茶会での会話聞いてた?ダリア姉様の性格の悪さはもう社交界でも有名なのよ?」
彼女はテーブルに肘をついて、底意地悪く笑う。
「デイジーは、ああはなりたくないなーってずっと思ってるの。いくら学校の成績良くたって、それを鼻にかけるような傲慢女がみんなに愛されるわけがないと思わない?そもそも、結局のところ男って家柄も大事だけど、見た目で人を選ぶところもあるわけで。デイジーの方がずーっとペチャパイのお姉様よりもスタイルもいいし、腰も括れててキュート!ね、そうでしょ?」
「は、はあ……」
だから、なんでここで自分に同意を求めてくるのだ、とシンシアは悲鳴を上げたくなる。
自分は、ダリアにもデイジーにも嫌われたくない。彼女たちはシンシアを自分の側につかせようと、わざと相手との縁を切るように持ち掛けてきているのだ。
嫌われたくないから、それはやめてほしいと言うこともできない。悪循環が、どこまでも続いている。
「使用人と仲良くするだけで、貴族の女性としての品位に欠けるとか言うのも意味不明だわ。お姉様は女性なのに料理もお裁縫も何もできないの。いつも自分が使ってるお皿とスプーンやフォークの位置だってわからないでしょうし、友達いないから話し相手になってもらえる人もいないんでしょう。ほんと根倉でプライド高いだけのぼっちって救われないわ。そんな女が、由緒正しきパール子爵家を守っていくに相応しいと本気で思ってるのかしらね?」
それであんたはどうなの?と彼女は上半身を乗り出してくる。
「シンシアは賢いからわかってるわよねー?本当員パール家のためになるのは、誰が跡取りになった時なのかっていうことを!当然、最終投票はデイジーに入れてくれるわよね?」
「ご、ごめんなさいお姉様。私はまだ、答えが出なくて」
「もー、シンシアってばお姉様に甘すぎ。もうちょっとびしーっとお姉様に指摘してあげたら?その性格の悪さを直さないと一生誰からも愛されないし、だからあんたはみんなに嫌われてるんですよーって。使用人たちからの信用もゼロだし?手先が細かい作業もできないだろうし?跡取りになって子供産んでもまともに子供育てられんのかしらね。精々虐待しちゃって、後で恨まれて殺されるのが落ちでしょー」
随分酷い物言いだ。仮にもそれが、長らく共に生きてきた双子の姉への言いぐさなのか。
腹が立たないはずがなかった。しかしここで自分がダリアを庇うようなことを言ったら、ますますデイジーの機嫌を損ねるのは明白である。
何より、彼女たちのマウントや攻撃の矛先が自分に向いてしまうのが怖くてたまらない。自分は姉たちとは、ずっとちゃんと仲の良い姉妹でいたいというのに。
「わ、私は、その」
情けない。
わかっているのに、結局ひっくり返った声で言うしかないのだ。
「まだ、そういうのは、わからないから……」
この状況はきっと、どちらかが跡取り内定すればもっともっと悪化するのだ。
そう考えれば考えるだけ、胃の腑がきりきりと痛むのだった。
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