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<5・Fear>
「……だああああああもおおおおお。っていうことがあったんですよ、おわかりぃぃ!?」
その日の夜、シンシアの部屋にて。
申し訳ないと思いつつ、ここ最近はすっかりスティーブに愚痴聴きをしてもらってしまっている。本人が“お嬢様のお話ならいくらでも聞きます”とかありがたいことを言ってくれるせいで。
シンシアがネグリジェ姿でベッドに転がってうだうだしていても、スティーブはちっとも呆れる様子がない。時々“パンツ見えますよ、気を付けて”くらいの指摘はしてくるが。
「確かに、人の悪口を聞かされることほど疲れることはありませんね」
スティーブは小さな椅子に座って、そう頷いてくれた。
「今日のお茶会のあと、ダリア様とデイジー様の笑顔がもうそりゃあブラックというか、ものすごくブチギレてそうだなーってのは感じてましたけど」
「そうでしょうともー。だから嫌なんだよ、家庭招待会。ひとんちの参加するのも嫌だけどうちで開催とかマジでサイアク。みんな噂話と見栄張りに来てるのが明白なんだもん」
「それはその、お嬢様の偏見もあるとは思いますが……」
まあ、自分でもちょっと極端なことを言っている自覚はある。素直にシンシアは“ごめん、言い過ぎた”と枕に顔を埋めた。
「ダリア様とデイジー様がシンシアお嬢様にお話されるのは、シンシア様のお考えが見えないからもあると思います」
スティーブは普段物静かだが、話すときはかなりきっぱり、きついことも言うタイプである。ここ数日でそれがわかってきたシンシアだ。
「最終的に、何度目かの親族会議で跡取りを決める……これが当家のならわしであるのは事実。そして実質多数決になるわけです。シンシア様の一票は重要でしょう。シンシア様が、ご自分に票を入れないだろうことがわかっているから尚更に」
「そーね……」
「そして、ダリア様とデイジー様が必死になる理由は想像がつきます。それは単なるマウント合戦ではありません。……万が一相手が跡取りになった時、この家のことをまとめる権利が相手に渡ることになります。場合によっては、自分が追い出される可能性もあるとお考えなのでしょう」
「は!?」
がばり、とシンシアは顔を上げる。
「追い出すって……姉様たちが、他の姉妹を!?ないないないない、いくらなんでもそりゃないよ!そんなことするわけない!!」
一息にそう叫んだところで、今日の二人の言動を思い出してしまった。
『あの子は未だに自分のことを名前で呼ぶんですのよ?敬語も苦手、マナーもなってない。頭も弱くて愚鈍だわ、使用人たちとの正しい距離感もつかめてない。まあ使用人たちを取り込んで、自分への指示を上げたいっていう薄汚い魂胆なんでしょうけどね。子爵家の次女が料理や皿洗いなんてできる必要もないというのに、なんてみっともない』
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