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『もー、シンシアってばお姉様に甘すぎ。もうちょっとびしーっとお姉様に指摘してあげたら?その性格の悪さを直さないと一生誰からも愛されないし、だからあんたはみんなに嫌われてるんですよーって。使用人たちからの信用もゼロだし?手先が細かい作業もできないだろうし?跡取りになって子供産んでもまともに子供育てられんのかしらね。精々虐待しちゃって、後で恨まれて殺されるのが落ちでしょー』
毎日のように、相手への悪口、印象下げに余念がない二人。さながらシンシアに、相手への悪いイメージを必死で植え付けようとしているかのようだった。
思わず、背筋が冷たくなる。
本気で恨んでいるとか、憎んでいるとかいうわけではなく、あくまで跡取りの地位が欲しいからマウントを取っているだけだと思っていたが――実際は違うのだろうか。
「そんなことするわけがない、とシンシア様が思いたいのは理解できます。俺だってそのようなこと考えたくもない」
でも、と渋い顔でスティーブが告げる。
「少なくとも、ダリア様とデイジー様はそうは思っていない。そしてそれには根拠があります」
「根拠?」
「お嬢様方のお父上のことです。跡取りを巡って、兄弟姉妹と争われたことはご存知のはず。その時の詳しい話、シンシア様は聞かれたことがございますか?」
「う、ううん。聞いたことない……」
そういえば、自分達の父は兄と姉が一人ずついたと聞いている。しかし最終的に、彼等を差し置いて本家を継いだのが自分達の父だった。今の時代でも、末弟が引き継ぐからには相応の理由があったはずである。どういうことか、については尋ねたこともなかった。興味もなかった。
というより、知りたくなかったというべきか。
明らかに交流が途絶えている姉と、明らかに父にへりくだっている伯父。一体何が起きたか尋ねたら、完全に藪蛇になってしまう気がしたから。
「俺も気になったんで、ちょっと旦那様に詳細をお尋ねしたんですけど。……やっぱり跡取りが決まる時期になって、兄弟三人で相当ピリピリしたみたいなんですよ。お互い恨みあって、憎みあって……なんなら、毒を盛るところまでいったみたいで」
「は……は!?」
「それで当時、旦那様付のメイドが毒見をして死んでます。……毒見をさせてる時点で、旦那様がそういうのを警戒されていた、ってことでしょうね」
目をひんむくシンシアに、スティーブが続ける。
「元々お姉様……シンシア様の伯母様にあたりますね、その方と旦那様は非常に折り合いが悪かったそうで。最終的に旦那様が跡取りとなった時、お姉様には適当な見合い相手を見繕って、嫁入りと言う名目で家から完全に追い出してしまったそうです。実質、そちらの家とは完全に縁が切れているそうで」
それは、なんとなく気づいていたことだ。
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