<1・Sisters>

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 *** 「はあ……」  シンシアはベッドに転がって、ため息をついていた。  今日は学校も休み。本来なら読書をするなりお買い物に行くなりするところだった。実際、こんな風に自室でベッドでごろんごろんしていても時間がもったいないだけである。学校の課題も片付けなければいけないし、やりたいことをやらないのももったいない。  わかっているのに動けないのは間違いなく、昨夜の次女デイジーの発言だろう。  長女のダリアが伯爵家の跡取りと話している現場を偶然見かけて、デイジーが自分に愚痴をこぼしたのである。 『やあねえ、ダリア姉様ってば。確かにエメラルド伯爵家の跡取り様はイケメンだけどー、ダリア姉様には全然似合わないと思うのよね。だって、つり合いとれないじゃない?ダリア姉様、デイジーと違って胸も小さいし、笑い方も下品だし、往来度の高さをすぐ言動に出しちゃうし、ねえ?まあ、デイジーに跡目争いで勝てそうにないから、お嫁に行く先を必死で探してるのかもしれないけどー』  あんたもそう思うでしょ?と最終的に尋ねられるところまでがデフォルトである。何で自分にいちいち同意を求めるんだ、とシンシアは頭が痛い気持ちでいっぱいなのだった。  ちらり、と壁にかかった絵を見る。高等部に通っているシンシアは現在、美術部に所属している。コンクールに出すための油絵の練習を必死でやっている最中なのだった。画材は家にもある。時間があれば、家で絵を描いてもいいはずだった。本を読んだり散歩や買い物をするのも好きだが、今一番シンシアが楽しいと思っていることは油絵なのだった。  描きたい気持ちはある。あるにはある。しかし、今日はまったく気分が乗らない。  それはデイジーに愚痴を吐かれて憂鬱だったのもあるが、それ以上に――デイジーの同意を求める言葉に、曖昧に返して誤魔化した自分が嫌になったからでもある。 『は、はあ。ごめんなさいお姉様。私、そういうの全然わからなくて』  本当は、そんなこと言わないで欲しいと言いたい。言いたいのに、言えない。己の気の弱さがつくづく嫌になる。  大好きな人同士がマウントを取り合う様なんて、本当はまったく見たくもないというのに、何でこうなってしまったんだろう。 「お嬢様?シンシアお嬢様ー。入っていいですかー?」 「う」  唐突にドアがノックされた。げ、と思ってシンシアは立ち上がろうとし、その瞬間シーツをひっかけてしまう。 「わ、わ、わああああああああああああああああああああああ!?」  どってーん、とまるで漫画か何かのように転落し、カーペットの上にスッ転んでしまう。そこに、がちゃり、とドアノブを回して入ってきた中年女性が一人。  入っていいですかーとか言いつつ、こっちが許可を出す前にずかずか踏み込んでくる豪胆な女性は彼女くらいなものだ。
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