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実のところ、シンシアは伯母とはまったく面識がない。古ぼけた昔の写真に写っていた記憶があるが、それだけだ。手紙のやり取りをしている様子もない。兄である伯父は分家として交流があり、今でも一定の権限を与えている様子なので完全に扱いが差がある。メイドが死んだ件の犯人も、ひょっとしたら伯母の方だったということなのかもしれない。
曾祖父の葬式にも呼ばれていなかったあたり、本当に縁が切れているのは間違いないのだろう。よほど折り合いが悪かったのか、あるいはそれを越えて憎んでいたか、だ。
「ぼかされてましたけどね。跡取りが決まった席でも、伯母様は相当旦那様を怒らせるようなことをしたそうで……。その結果、かなり酷い結婚相手を押し付けて縁を切った、と。旦那様は今でも仰ってましたよ、いい気味だ、因果応報というものだ、と」
「そんな、実のお姉さんなのに……」
「家族だからといって愛し合えるとは限らないということでしょう。お兄様とも一時期険悪になったようですが、お兄様は跡取りが旦那様に決まった後は一切逆らわなかったようで。その結果、どこぞに婿入りせずに済み、嫁を貰って近くの別邸に住むことを許された……と言う流れであったようです。……ここまで話せば、大体お嬢様もわかりますよね?」
「……うん」
察してしまった。
恐らく、姉たちは知っていたのだろう――父とその兄姉が、泥沼の争いを繰り広げたということを。
跡取りになれなかった者は、酷い結婚相手を押し付けられて家から出ていけと言われる可能性が高い。望まぬ結婚をしたくないなら、自分の人生を守ってこの屋敷に住み続けたいなら、嫌でも跡取りになるしかないと思っているのだろう。
自分達もきっと同じことが繰り返されるだろうから。
そのように考えてしまっているから。
「で、でも……」
否定したい一心で、シンシアは口を開く。
「それは、お姉様が元々仲が悪かったから、なんだよね?少なくともダリア姉様とデイジー姉様は元々仲良しだったんだよ?私とだって!いくら、跡取りになったからって、他の姉妹を強引に追い出す必要ある!?」
「おっしゃりたいことはわかります。けれど、希望的観測は尾捨てになられた方がいいかと」
「なんで!」
「厳しいことを言いますが、貴女方が女性であることはまだ大きいように思います。……跡目を継げなかった女性はどこぞに嫁入りにいき、家を出ていかなければいけない。そういった風潮が、貴族の間ではまだ根強く残っているのです。そしてその嫁入り先は……本家にとって、より有意義な相手でなければいけない。例えそこに愛情がなかったとしても、個人としてどれほど嫌悪する相手であったとしても。そのような考えが強く残っているのが実情なのです」
「そ、そんな……」
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