<5・Fear>

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 シンシアは言葉を失った。今の話は、そのまんまシンシアにかかってくることにも気づいたからだ。  ほぼ確実に、自分は爵位を引き継ぐことがない。  勿論シンシアはまだ十六歳だから、二十歳になるまで結婚は不可能だ。それでも二十歳になった直後、どこぞに嫁に行けと追い出される可能性はかなり高いということではないか。 「シンシア様、落ち着いてください」  シンシアが何を想像したか気づいたのだろう。スティーブは少し慌てたように続けた。 「シンシア様は十六歳ですから、仮に次の親族会議で誰が跡目に決まったところですぐに追い出されることはまずありません。それに、ダリア様もデイジー様もシンシア様のことは守ると、そう仰っているのですよね?その言葉が本当ならば、シンシア様が意に添わぬ結婚を強制するつもりはないでしょう」 「で、でも……お姉様たちは……」 「その通り。どちらも二十歳を越えていますので、すぐに結婚できる年齢です。跡目が決まったらすぐ、自分は追い出される可能性がある。だからこそ必死なのでしょう」  いろいろと、理解してしまった。  姉達の悪口大会にうんざりしている、だけではだめだったのだ。そこにはもっと深刻な事情があった。とにかく相手の印象を下げなければ、自分が生き残れないかもしれない。今の生活を守れないかもしれない。それが卑怯な手でも、そうするしかないと彼女達は思いこんでしまったのだろう。  ひょっとしたら周囲の大人たちが二人にいらぬことを吹き込んだのかもしれない。だって、跡目の話が出るまでは双子の姉たちの関係は良好だったのだ。仮にどちらかが爵位を継いでも、相手を追い出しにかかるだなんて考えもしていなかっただろうに。 「事情はわかったけど、でも、私……お姉様たちに仲良くしてほしい……」  シンシアはベッドの上に座り、膝の上で拳を握りしめた。 「でも、どうすればいいのかわかんない。私、お姉様たちに嫌われたくないよ。けどもうマウント合戦なんて、見たくない。でも、どう言ったらわかってくれるのか、全然想像がつかない……。ねえ、スティーブは、なんかいい考え……ある?」  本当は、もっと自分で考えて動かなければいけないのかもしれなかった。でも、どうしても良い案が出ない。自分のしょっぱい頭が嫌になってしまう。ダリアのような知識や、デイジーのような頭の回転の速さがあれば何か思いついたかもしれないのに。 「でしたら」  少し考えた後、スティーブは告げたのだった。 「俺に、考えがあります。……少しだけ、お時間をいただけませんか?」
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