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<6・Zoo>
良い考えがある、とスティーブに言われたところまではいい。
ぜひ教えてほしい、と頼んだところまではいい。
「えっと……」
ぽかーんとして、シンシアは目の前の柵を見つめたのだった。ちなみにシンシアの手には大きな鞄とスケッチブックがある。
「これは、一体、どういう?何で動物園?」
「いいから、いいから」
スティーブはちょいちょい、と細い手でシンシアのシャツの袖を引っ張っていた。
「とりあえず、好きなところから見てしまいましょう。シンシア様は動物が好きで、絵を描くのも大好きだと聞いていたのですが違うのですか?」
「そ、それはそう、だけど、も……」
そう。
翌日の日曜日。シンシアはスティーブと一緒に、王都にある動物園に来ていたのだった。ここは上流階級が来ることも多い動物園で、上品な日傘をさした貴婦人や、お洒落な蝶ネクタイの少年なんかがすぐ傍を走っていくのが見える。確かに自分もこの動物園は好きで、幼い頃は何度も来たものだった。ここ数年は、ご無沙汰になっていたけれど。
姉達のことをどうにかするのではなかったのか。
何故急に、自分を動物園に連れてきたのだろう。しかも画材一式を持参した上で、だ。
「ていうかお嬢様、画材持ちますよ。俺だってそれくらいは……本当にいいのですか?」
「それは気にしなくていいよ、大丈夫。私結構力持ちだし」
ていうか、スティーブ力ないし、とは此処だけの話。それを正直に言ったら彼も傷つくだろう。
目の前にあるのはコロネロチーターの檻だ。クリーム色の毛皮にぶち模様、丸い耳が特徴の猛獣がゆうゆうと柵の向こうを歩いている。肉食獣にも拘らず、キイロキリンが普通に同じエリアにいるのは訳があるらしい。チーターは、自分より大きな動物は狙わないというのだ。確か、他の肉食獣と比べて力や体力で劣るから、ではなかっただろうか。
「チーターお好きですか?」
じっと柵の向こうを見つめるシンシアに気付いたのだろう。スティーブがちょこん、と上目遣いで見上げてくる。年下のとびっきりの美少年にこれをやられるのは結構ドキリとするものだ。
「うん、チーターは、好き。可愛いと思う」
「確かに、大型の猫ってかんじですよね。実際猫化だし。好きなのは見た目だけ、ですか?」
「見た目だけじゃないよ。……うーん、いろいろ理由はあるけど、人間の友達になってくれるところも好きかな」
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