<6・Zoo>

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 肉食獣であるはずなのだが、コロネロチーターは人になつくことで有名な動物でもある。性格自体、他の肉食獣と比べると極めて温厚なのだという。  勿論肉食獣ではあるので、動物園では危ないことがないように柵で囲って人間が近づけないようにはなっているし、飼育員も直接中に入って餌をあげることはしないと聞く。が、一部の大陸や地域では、コロネロチーターは一切肉食獣として扱われず、村や町で共存共栄する生き物として生活していることもあるそうだ。  とまあ、このへんの知識は昔動物園に来た時に聞いた知識ではあるが。 「コロネロチーターはとても優しい性格で、簡単に人に危害を加えたりしないんだよね。キイロキリンも襲わないから、同じ檻に入れておけるわけだし。でも優しいだけじゃなくて、かっこいいところも好きだなあ。ガソリン車並みの速度で走るって言うじゃない?その代わり、体力はないんだけど」  凄いよねえ、としみじみ語る。するとスティーブは“詳しいんですね”と笑った。 「スケッチ、したかったらしてください。学校でも美術部に入っていて、絵を描くのがとても好きなんでしょう?」 「ああ、うん。最近家じゃ、まともに描けてないけどね……」  少し前までは、家でも空いた時間にいろいろな絵を描いていたものだ。  最近描かなくなってしまったのは、姉たちの愚痴聴きをしていたから、ではない。別にそれにとられる時間など僅かだ。話を聞いた後に気晴らしに描いても良かったはず。それをしなくなったのは、多分。 「……あんまり、描ける気が、しないな」  学校の部活の場では、雰囲気に流されて描くこともできなくはないのに。  ああ、でも。最近顧問の先生にも“精彩を欠いている”と言われてしまっている。シンシアらしい色が出せていない、味が失われてしまっていると。  スランプというのだろうか、これも。 「でも、描くのが好き、なんでしょう?だったら、描きたくなったらその時描けばいいです。チーターでもキリンでも、他の動物でも」  スティーブはそう言って、シンシアの手を取る。 「次の場所、行きます?」 「う、うん。そうだね……」  なーう、と柵の向こうでコロネロチーターが小さく鳴き声を上げた。シンシアはなんとなくそちらに手を振ってみせる。  なんとなく思った。  ひょっとしたらスティーブは単純に、シンシアが落ち込んでいることに気付いて、気分転換をさせてくれているのかもしれない、と。
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