<1・Sisters>

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「い、いっつも思うんだけどさ、ハナ……」  顔面を強打し、床に潰れたまま呻くシンシア。 「こっちが許可する前に入ってきたら、もうそれノックの意味がまったくないんじゃないかなーって、そう思うんだけども……」 「さっさとストップかけないお嬢様が悪いです。ていうか、なんですかその格好。ネグリジェのままだし、なんならスカート捲れてパンツが丸見えになってますが?あとなんで床と接吻なさってるんです?一人コントでもなさってるおつもりで?」 「……いつもながら丁寧な毒舌どうも……」  ハナはこのパール家に一番古くから仕えているメイドである。今年で五十八歳。両親どころか祖父母からも一目置かれているメイド頭であり、自分達にとってはもう一人の母親のような存在でもある。なんなら仕事で忙しいことも多かった母親以上に、幼い頃から自分達の面倒を見てくれていたように思う。  彼女は昔から容赦がない。  雇い主の娘たちだからと変にこびへつらったりしないし、駄目なことははっきり駄目だというし、なんなら悪戯してお尻ぺんぺんされた記憶もあるほどだ。昔から非常に厳しい人だった。反面、それはシンシアたちへの愛情の裏返しだということもわかっている。娘のように大事にしているからこそ、いけないことははっきりいけないと言う。マナーはしっかり叩きこむ。両親もそれを知っているからこそ、自分達の教育や指導を彼女にに一任しているのだろう。 「こんな時間にネグリジェのままですか?それではお外に出られないでしょう、さっさと着替えてくださいな」 「……今日出かけないかもなんだけど」 「お屋敷の中を出歩くにしたって、客人の目に入らない保証もないんですし、着替えてもらわないと困りますわ。っていうか、髪の毛もぐっちゃぐちゃでしょう、直して差し上げますから、まずは御召し物をなんとかしてくださいな」  はああ、と彼女は呆れたようにため息をついた。動くたびに、お団子状にまとめた髪が揺れる。 「その様子だと朝食もまだ食べてないのでしょう?……何かあったんですか」 「あったといえば、あったかな。いつものことだけど」 「それは、ダリア様とデイジー様の件、ということでよろしいですか?」 「うん。……まあ、ハナには誤魔化せないかあ」  苦笑いしながら、その場ですっぽーんとネグリジェを脱ぎ捨ててベッドの上に放り投げた。はしたないのはわかっているが、どうせカーテンは閉まっているし、この部屋には同性のハナしかいないのだ。  ハナは少し顔をしかめたがそれ以上何も言わなかった。素のシンシアがお嬢様らしからぬ大雑把な性格であることなど、とうに知れたことなのだから。
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