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「お姉様たち、ほんとここ最近駄目だよ。ピリピリしちゃってて、お互いに悪口ばーっかり言ってる。跡目争いと結婚のこと毎日のように口にしてさ、それでその都度私を呼び出して愚痴って同意求めてくるんだよ?ほんと勘弁してほしいよ」
ハナの口は堅い。
こんな話をしても、姉達に伝わることはないと知っている。
「そりゃあ、跡目を継ぐとか結婚するとかは大事かもしれないけど、なんか時代錯誤な気がしてならないんだよね。少しずつだけど貴族と庶民の権力の差が縮まってきてるご時世だし、階級だけじゃなくて実力でものを判断するべきって風潮も広まってきてる。跡継ぎが女でもいいとか、長子じゃなくてもいいってなってきたのもそういうことだろうしねえ」
下着を脱ぎ捨て、クローゼットを開ける。ぽんぽんと投げた端から服を着ていく。髪の毛はぐっちゃぐちゃのままだったが、ドレスを着た後でないとまた崩れる可能性があるので意味がないのだ。
ちなみに両親にはうだうだ言われるが、シンシアはコルセットや針金が入っているタイプの服は大嫌いだった。息がつまるし、自由に動けないからだ。まあ、十六歳になった今は昔のように、庭の木に登ってオレミカンの実をもいで遊ぶとか、そういうことをするつもりはないけれど。
「お嬢様がうんざりしているのはわかりますけど」
シンシアが脱ぎ散らかした服を拾いながら、ハナが言う。
「シンシア様も跡取り候補の一人であることはお忘れなく。結婚だって、いずれ嫁入りするか婿取りをするか選ばなければいけないのですよ?」
「結婚できるのは二十歳からでしょ。私はあと四年は関係ないと思うんだけど。そもそも私は跡取りに選ばれるはずないし」
「貴族の中では十二歳にはもう婚約者が決まっている人もいるくらいなのです。むしろこの年まで三人とも婚約者が決まっていない方が珍しいくらいですわ」
「えええ……」
そんなこと言われても、とシンシアはハナを振り返る。
「なんで好きでもない人と結婚しなきゃいけないの。その考え方は古いって。今じゃ貴族でも、恋愛結婚する人どんどん増えてるのに。そもそも、結婚しないっていう選択肢もあるでしょ?極端な話、跡取り息子とか跡取り娘だけが結婚すれば血は絶えないんだしさ」
なんなら、貴族の血だけで全てを決めるというのもナンセンスだし、結婚によって家同士の結びつきを広めるというのもやや時代錯誤だと言われつつある昨今である。
どうしてそんなことを今考えなければいけないのか。自分は、どうせ跡取りに選ばれることなどないというのに。
「まったく、この子はもう……」
ハナは何か言いたいことがあるようだった。しかしこの場は首を振って息を吐くにとどめたようだ。というのも。
「とにかく、さっさと外に出られる準備をしてください。お父上がお呼びですから」
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