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「オレ、お金ためたいんです。ここで仕事すれば賃金もいいって聞いて。……どうしてもオレらみたいな孤児を雇ってくれる仕事って多くないんですよね。でもって、雇ってくれたら雇ってくれたで危険な工場の仕事とか建築作業現場とかそういうのが多くって。力仕事が嫌なんじゃないけど、安全性が担保できない仕事はしたくないなって思いまして。不純な動機ですんません」
「いいえ。正直でよろしい」
ふむ、とシンシアは顎に手を当てて頷いた。
ジョーはいかにも脳筋みたいな見た目をしているが、動機を語る言葉は流暢だし語彙も豊富だった。見た目よりずっと賢そうである。同時に、お金が欲しいから、と一見すると隠したくなるような動機を素直に話している。正直者だ。これは存外ポイントが高い。
「では、最後に三人目。スティーブ・フランさん。十五歳。あなたがうちの使用人を志望した理由を教えてください」
「…………」
三人目の少年は、シンシアの言葉に無言の視線を投げかけてきた。
他の二人の少年もけして不細工ではない。が、正直このスティーブを見た時驚いたものだ。世の中に、こんな綺麗な顔の男の子がいるものなのか、と。
あちこち跳ねた、青みがかった黒髪。群青色の瞳はまるでサファイアをはめ込んだかのよう。睫毛が長く、色が白い。体格は華奢で首もほっそりしているが、その目の奥の光は強く、意志の固さを感じさせるものだった。
「……俺、できれば仕事したくないです」
そして、驚くべきことを言ってきた。
「でも、センセイに薦められたんで。俺も十五歳だし、そろそろ職業訓練始めないとまずいって。この家の使用人が一番丁寧に面倒みてくれるからって」
「仕事したくない?」
「というより、できる気がしません。悪いんですけど、俺体が丈夫じゃないから。機械を使うとかの細かい作業は得意だけど、体使う作業とかあんまりできないし……。仕事しないといけないのはわかるけど、俺の病気完治できないやつだから、ずっと医者と薬の世話にならなきゃいけないんですよね。だから稼がないといけないけど、あんまり人の迷惑になりたくないというか」
「へえ……」
スティーブについての特記事項を見る。
細かな作業が得意なのは本当であるようだ。裁縫、洗濯、料理。孤児院で発生したそういうこまごまとした仕事を黙って手伝ってくれて、しかも完璧にこなしてくれるのが彼なのだという。頭がいいので、最近導入された最新型のタイプライターなども使いこなすことができるらしい。
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