13人が本棚に入れています
本棚に追加
「わかりますって、その体格見てたら。ていうか資料に、フットボール部所属って書いてあるし。そんな貴方に良いこと教えてあげましょう。うちの警備兵の訓練にね、フットボールを取り入れてるんですよ。うちで訓練するともれなくフットボールができます。でもって王様主催の大会にもこっそり出場してたりして」
「ま、マジで!?や、やります、やらせてください!」
ジョーの目がキラキラと輝いた。そう、うちの使用人になれば、フットボール選手として活躍する道が開けるのだ。体を鍛えながら、フットボールの特訓もできる。国王陛下主催の大会で優勝したチームには、もれなく爵位が与えられることでも知られている。なんなら世界大会に出場する道も開けるだろう。
もちろん、プロからスカウトが来ることもある。彼にはぴったりな仕事だ。
「最後に、スティーブ」
ぽかん、とした顔の美少年に、シンシアは顔を向ける。
「貴方のスキルは素晴らしい。ですが、労働力としてみた時、身分の低く体が弱い男性ができる仕事というのはあまりにも限られています。さっきジョーも言ってましたけど、どうしても危険な肉体労働を要求されがちなんですよね。貴方に、そういった仕事に適正があるとは思えない」
「……でしょうね」
「でもうちならば、貴方にあった仕事を提供できます。執事の仕事は実際、オールマイティなものが求められます。お父様の仕事を手伝ってくれるような、経理や事務が得意な人というのはまさに喉から出が出るほどほしい。それと忙しい時に家事のサポートができる方もとてもありがたい。……うちなら専属の医者もいます。貴方の病気の解明、治療も進むかもしれません。どうでしょう、やってみませんか?貴方が貴方の力を生かして生きていくためにも」
「…………」
彼は戸惑った顔のままシンシアを見て、そして呟いた。
「……俺のこと、お荷物だと思わないのか」
敬語が抜けたのは、それが紛れもない彼の本音だからだろう。そして、ちょっと丁寧語が喋れなかったくらいで怒るようなシンシアでもない。
「むしろ、私は貴方がほしい!」
にっこり微笑んで言えば、彼は動揺したように視線をさ迷わせて、まあ、と言葉を濁した。
「……あんたが、そう言うなら」
「決まりだね!」
人の良いところを、適正を見つける。“人事”の仕事が、シンシアは嫌いではない。
父を振り返れば、彼もわかってくれたのであろう、笑顔で頷いたのだった。
「いいだろう、お前の望む通りにしよう」
最初のコメントを投稿しよう!