魂の配達人

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「お届けにあがりました」  男が連れてきたのは、中学校の制服を着た、黒い何か。 「…は?」 「あなたが、クラスメイトの魂の中に刺した、あなたの魂の一部です。ちょっと年季が入って、あちこちすり減っちゃってますけど」  もう一度、その黒い物体を見る。着ている制服は、確かに昔通っていた中学校のものだが、黒っぽく蠢くそれは、自身どころか人間にすら見えなかった。 「依頼人は、ぜひ本人に送り届けたい、とのご意向でしたので」  とん、と、それを押すと、するり、と本来の主人の中へと入る。 「確かに、お返ししました」 『キャハハハ!』 『うーわ、キモ』  これは、なんだ? 私か?  次々と思い出す、同級生を嬲る中学生の自分。 『ホントに舐めた、汚ったなー』 『クスクス、早くしなよー』  相手の顔が、やけにハッキリ思い出された。そいつへの仕打ちに胸が悪くなる。 『アハハハハ!』  あんなの、友達同士の遊びの一つ、またその中で努力した者の当然の権利だったはずだ。ここまで酷いことをした覚えも、なかった。大人になり、まだ幼い子供を持つ今、そんな昔のことを一方的に責められて、どうしろというのか。 今度、住所を調べて、謝りにいこう。それで、この件は忘れてしまえる。 「そうそう、あなたがイジメて削り取った依頼人の魂、こちらは返してほしい、との依頼でしたので。失礼」  男は、ずるり、と、足元からクラスメイトの形を引き摺り出した。  記憶の中から、同級生の顔が消える。 「待っ……依頼人、て…誰?」 「守秘義務がありまして」  男は立ち去った。  過去の、おぞましい記憶だけを残して。 ※※※ 「あの時は、ありがとうございました…おかげで長年の悪夢から解放されて、普通の暮らしが出来るようになりました」 「それはそれは」 「……で、今頃になって、何の御用ですか?」  かつての依頼人に、男は笑顔を向けた。 「配達です」  男が連れてきたのは、職場の制服を着た自分の姿。少しボヤけたその顔が、嫌味に笑った。 「お届けにあがりました」 (了)
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