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後にユウリはその小説を読み、二ヤついた。
愛の言葉
ああ〜〜〜〜〜!!!とアキノが呻き、ベッドでスマホを見ていたユウリは何事かと顔を上げた。
「だめだ!!言葉が出てこない!!」
パソコンに向かっていたアキノは赤い頭をガシガシと掻く。
「小説、行き詰まったのか?」
そう声を掛けると、ゔん、と俯いた。
確か今は恋愛モノの原稿をやっているはずだ。
物語の倉庫であるアキノが頭を抱えるのも珍しかった。
どう詰まってるんだ?と問うと、今度は顎を上げる。
「口説いても口説いても落ちない子と良い雰囲気になって最終的に落ちる話なんだけど、その落とすセリフが思いつかなくて……」
確かに難しいものだった。ふむ、とユウリも顎を持つ。
「アキノが言われて落ちる言葉とか?」
「それは使い切った」
「それでも落ちないのかあ……」
ぎしり、とアキノはパソコンチェアに寄り掛かった。
「俺がアキノに言った言葉を思い出せよ」
あれはユウリなりに最高の口説き文句だった。
赤い眼を瞑って思い出している。
「……参考にならん!!!!!!」
少し顔が赤くなったアキノの言い切りにユウリは少し笑った。
「じゃあアキノが俺に言いたかった言葉は?」
もし、ユウリに告白するなら。
5秒ほど無音になり、がばりとアキノは起きてキーボードを叩き始めた。
「ありがとうユウリ!!思いついた……っていうか、思い出した!!」
カタカタと高速で指を動かす。
「えー?そんな良い文句思いついたのか?」
気になる、と近寄ると、アキノは慌てて画面のウィンドウを最小限にした。
「あ?教えてくんないの?」
「ゆ、ユウリは知らなくていい!!」
慌てる恋人に、ユウリは少し意地悪をしたくなった。
「なんで?俺は言ってやったのに」
「は、恥ずかしいよ、あんな昔の言葉」
「小説完成したらどうせ俺も読むんだぜ?」
「そりゃそうだけど、今は……やっぱダメ!!」
こんなに恥ずかしがるアキノも珍しから、やはり揶揄いたくなる。
おしえて、と耳元で囁いてやれば、アキノは顔を真っ赤にさせて観念した。
「……い、一回しか言わないからな……!!」
こそ、とアキノはユウリに耳打ちする。
それを聞いて、ユウリはクツクツ笑った。
ああ、やっぱり俺の恋人は可愛い。
なんだかむず痒い。恥ずかしいのもわかるセリフだった。
「可愛いよ、アキノ」
ユウリは思わずそう呟く。
そしてその唇にバードキスを落とした。
ああ、この言葉は俺達だけが知っていればいい。
読者である君達には教えない。
精々、どんな言葉か妄想して悶々としてくれ。
ただ、一つ言えるのは、知り合って半年間、アキノが俺に届けたかった言葉だ。
そう考えると、案外簡単な言葉かもな。
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