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それなのに……。それなのに、いったいどうしてこんな事になっているのだろう? 照明の落とされた薄暗いホテルの一室で、市川とその彼女は、激しくお互いを求め合っている。一糸まとわぬ彼女の白い肌はとても美しく、男の本能を呼び起こし、未知の興奮さえ覚えてしまう。
絡み合う二つの心と身体は、深く愛し合う恋人同士の行為そのものだ。だが…、これは不倫なのだ。決して許されぬ不貞行為なのだ。心の片隅で、その罪悪感が叫び声を上げている。
それでも…。心も身体も本能のままの野獣と化した今の二人には、そんな罪悪感は何の意味もなさない。もう、止める術など存在しなかった…。
「し、白石君…」
身体中が熱く火照り、市川はその興奮からか、思わず声を漏らした。
「こ、こんな時くらい、な、名前で呼んで下さい…」
激しく、熱い吐息を漏らしながら、彼女は何とかそう答えた。
「梨恵…」
「伸夫さん…嬉しい…」
名前を呼ばれて激情に駆られたのか、梨恵は熱情的に唇を重ねて来た。絡み合う舌先は、言葉では表せないほど刺激的で官能的である。二人の息遣いは更に荒く、そして熱を帯び、互いを激しく求め合うその熱情は、烈火のごとく天まで燃え上がった。
「伸夫さん、伸夫さん…!!」
「り、梨恵…梨恵…」
梨恵の情熱的な喘ぎ声は、市川の全身を激しく貫き、かつてないほどに興奮させた。男の本能を剥き出しのまま、市川は激しく梨恵を求め続けた。梨恵の中は、じっとりと市川のそれに絡みついてくる。
脳内が真っ白になる。もはや理性など欠片も無い。二つの野獣の性的興奮はやがて頂きまで達し、遂には互いに果ててベッドに倒れこんだ…。
「伸夫さん、とても素敵でした…」
まだ興奮の冷め止まぬ中、梨恵は市川にその身を寄せて、耳元に熱い吐息を吹きかけた。
「き、君こそ…とっても綺麗で、素敵だったよ」
市川がそう伝えると、梨恵は妖艶な微笑みを浮かべながら、そっと唇を押し当てた。
だが…、激し過ぎた行為の末のその口付けは、一気に市川を現実へと引き戻した。甘く激しい快楽の後、大きな背徳感と後悔が市川を襲った。妻と子供たちの顔が、脳裏を過る…。市川は狼狽えた。つい数分前とは全く別の意味で、脳内が真っ白になる。嫌悪感で吐き気さえ催す始末だ。
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