第11章 超悪転生は、のっぺらぼーに全身黒タイツ?

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第11章 超悪転生は、のっぺらぼーに全身黒タイツ?

徳男は、立ち上がって自分の両掌を見た。 「あ、あれ……? なんだ、オレの掌、真っ黒なんだが??」  掌だけでなく、足先から胸元まで、自分の確認できる範囲の身体を確認した。 それは、全身が黒タイツで覆われているという異常なスタイルだった。 「これ、黒塗りのペプシマンみたいだな」 率直な感想だった。 「なんか、心なしか腹回りがすっきりした気がする」 腹を見た。腹筋が割れている。 「ほおお、サナダムシに転生した割には人間ぽいな……。ていうか、オレのブヨブヨ腹じゃねえ。あ、そうか。これはあの世だ。あの世の、仮の姿か。この後、サナダムシに転生ね。あー、そう言うこと」 ―たわけ。そちは余の下僕として生まれ変わったのだ。その代償として、暗黒の力を無限に増殖させ、無敵の肉体を与えてやったのだ。  そもそも、引き籠りニートはスラングで「無敵の人」と言われている。 「無敵? マジか。リアルでも無敵になったんか? ああ、元々オレは無敵の人だったからな。何も怖い物はないんだけどな、あっはっはぁ!」  徳男は呑気に笑った。 ―ああ、そういえば、顔を奪ったと言う事も忘れずにな。 「は? 顔を奪った? どういうこと?」  徳男は、慌てて自分の顔をまさぐった。 「ゲッ。目と口がない! なんなら、眉毛とか髪とかもない!」   ―うむ。無敵の代償として、そちの顔は預かって置く。それから、生殺与奪権は余が譲り受けておる。それから今後、余がそちの脳に直接、指令を送る。精進せよ! 「は? お、おい、待てよ。どうすんだよ、この格好! 怪しいじゃんか、全身黒タイツでのっぺらぼーって、家に帰れねえし、飯が食えねえだろうが!」 ―あぁ、5人全員捕まえてきたら、元の姿にもどしてやる。そうだな、まず手始めに「火」の者を連れてこい。デッドorアライブ、どっちでも良い。  それだけ吐き捨てると、光の存在は姿を消した。  それまで、眩いばかりの光に包まれていたその空間は、あっという間に元の空き地に戻った。 そしてそこには、小さな鳥居が再び残されていた。 「いや、マジか。これ、サナダムシに転生するよりひでえ放置プレーじゃね?」  一体どうすれば良いのか。  全身黒タイツの「無敵の人」に変えられた挙句、ほったらかしにされてしまった。 第12章 スペック確認  徳男は、途方に暮れていた。 「マジ、どうしろっていうんだ? 小屋に放り込まれた時より、ひどくねえか。もはや顔もねえし、人間じゃねえからな。てか、5人連れてくりゃ良いって言うけど、どこの誰のことだよ……」  訳が分からないが、徳男は変質した体をくまなくまさぐった。 「ん? なんか、すげー筋肉質になってんな。つーか、身長も伸びてるし、体が軽い気がする」  試しに、ジャンプしてみる事にした。  びよーん 「う、うおっ!」  徳男の真っ黒な体は、樹海の木々を飛び越し、はるか遠くまで見通せるほどの高さにまで達した。 「ふ、富士山見えるやんけ!」  それは美しい稜線だった。夕陽が沈む直前の富士山は、稜線が真っ赤に燃えて一瞬だけ、徳男の憂さを忘れさせてくれた。 「っていうか、目がないのに見えるのか?」   どすん  両足で、しっかりと着地したが、足の痛さは全く感じない。 「な、何なんだ、このパワー?」  徳男は感じていた。この真っ黒なペプシマンの様な体に宿る異常なパワーを。 「うーむ。これワンチャン、ヒーローになれるぞ……」  そう思った時。  どぉーーーーーーーーーーーん 「うぎゃあっ」  徳男の真っ黒な体を一筋の稲妻が貫いた。 ―愚かな。ヒーローなどになろうと考えるな。正義の味方となった瞬間、余が己の身体を八つ裂きにしてくれるわ。 「な、なんだ? あいついなくなったと思ったら、オレの頭の中で声が響いてくるぞ」 ―言うたであろう。余の下僕となって、悪を超えた超悪となるのが下僕の役儀。良いか。これから第一の命を下す。心して励め。  判定者の容赦ない仕打ちと「命」という名の仕打ちに、徳男は今さらながら自分の「下僕」という立場を認識した。 「は……。マジかよ。分かった、分かったよ」 ―もう一つ言い忘れたことがある。その力は全て「負の力」である。お前の様な下等生物が、「覚醒装置」で死なずに済んだのは、お前の様なポンコツには「正の力」が全くなかった証左なのだ。  つまり、徳男の身体には、「ポジティブ」な力は全くなく、全てが「ネガティブ」な力、いわゆる「憎悪のエネルギー」で出来上がっていると言う事なのだと、判定者はかいつまんで説明した。  常識では説明しきれぬ事態だが、ヒキニート徳男は、知らず知らずのうちに、世の中や両親、妹への歪んだ憎悪のエネルギーを蓄積させていたのだ。 ―その負の力の開放は、ポンコツ自身の創意工夫によってなされるのだ。 「よく分からんですが。ていうか、どうやったら元に戻れるんですか? こんな顔もないのっぺらぼーでは、社会復帰ができないんだけど」 ―どの口が言うか。元の姿に戻りたい、だと? ある条件を果たした時、自然ともとの姿に戻るであろう。 「ある条件って。思わせぶりかよ。ていうか、あの電撃、やめてくれって、マジで」 ―あ、それは無理。下僕を管理するのに必須アイテムだからな。 「なんじゃそれ。奴隷と同じじゃねえか」 ―下僕と奴隷は、ほぼ同義である。最初の指令を与える。あれを見よ!  見ろと言われても、目も鼻も口もないのっぺらぼーだが、なぜかダイレクトに脳にその画像が映り込んでくるのだ。若干、どうやって息をしているのかとか、どうやって飯を食えば良いのかという疑問が残らないでもないのだが。
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